「美術の歴史」はビジネス戦略の宝庫といえる理由 「名画」は綿密すぎる戦略のもとで生まれている

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その仕掛け人で「印象派の父」と称される画商デュラン=リュエルは、今日の美術市場のビジネス・モデルの確立者として知られる。

デュラン=リュエルは、印象派を褒めた批評を載せる雑誌を自前で創刊、顧客に印象派の市場価値を保証するメディア戦略にも抜かりがなかった。当時は近代ジャーナリズムの確立期であり、新聞雑誌に載る批評は「名の製造装置」すなわちブランドの創出マシンと見なされた。このマシンを最大限に活用して創出された、史上最初にして最強の絵画ブランドが印象派にほかならなかったのである。

ブランド創出に際してデュラン=リュエルは、周到に当時の論壇や出版界のご意見番を取り込み、今日でいえばテレビの国民的人気番組の司会者やネット上のカリスマ的インフルエンサーにあたる人物を味方につけている。

そうした戦略の舞台裏をよく知るモネは、「もはや新聞雑誌の批評の助けなしに画家の成功はない」と画商に書き送った。ルノワールも、「絵の価値は値段で決まる」と公言している。

経済的な余剰がなければ美術は存在しない

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ともすれば、こうした美術の経済的な側面にまつわる話題は芸術性に反するように見なされがちだが、もともと美術というものは、経済的な余剰が存在しないところには決して存在しない。

美術が経済の話題を避けるのは、その出自があまりにも密接に経済と直結しているため、出自を暴かれることによって美術の価値やイメージが下落するのを案じてのことである。

対照的に、同じ経済の話題であってもオークションで巨額で落札された名画のニュースが好んで取り上げられるのは、こちらは美術の価値やイメージを上げることに直接的に貢献する話題だからである。

こうした美術における経済的な視点のアンバランスについては、美術研究や美術史学の分野でも反省の声が上がっており、21世紀に入って以降の美術学界では、先進的な研究が続々と発表されている。

西岡 文彦 多摩美術大学教授

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にしおか ふみひこ / Fumihiko Nishioka

1952年生まれ。多摩美術大学教授、版画家。1992年に刊行した『別冊宝島 絵画の読み方』で、「名画の謎解き」ブームを起こす。美術書・美術番組の制作・企画多数。国連地球サミットや愛知万博の企画にも参画。著書に『ピカソは本当に偉いのか?』『名画の暗号』など。

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