新中計発表のはずが、フタを開けてみれば新和海運と日鉄海運合併の仰天会見、新社名は「NSユナイテッド海運」に
新中計発表との事前告知は方便、会見が始まってみれば、なんとM&A会見だった--。
5月20日、日本郵船系列の新和海運と、新日鉄の海運子会社・日鉄海運は、10月1日に合併することを最終合意したと発表した。存続会社は新和海運で、新和海運が日鉄海運を株式交換で10月1日に吸収する。日鉄海運株1株に新和海運株1.6株を割り当てる。
前日までにメディアに配布していた「記者会見のご案内」で、新和海運は、「弊社では中長期を睨んだ新たな計画を策定しておりましたが、今般、まとまりました」「件名:中長期を睨んだ新たな計画ほか」などと明記していたほか、取材に対しても「延期中だった5月までに新中計を策定する」としていた。しかし、5月20日の会見当日、フタを開けてみれば、新中計の話は一切なく、日鉄海運との合併の詳細に終始した。
実は、新和海運のこうした「手法」はこれが初めてではない。今年1月28日には「弊社では第3四半期ほかについて、記者会見を行います」「件名:第3四半期決算短信ほか」とし会見を開いたが、始まってみれば、新社長内定の会見だった。
1月28日の会見も5月20日の会見も「ほか」のほうが主題だったわけだ。
それはさておき、新社長には日鉄海運社長の島川惠一郎氏が就任する。新和海運の杉浦哲社長は新会社の副社長に就任する。代表権者は島川氏と杉浦氏の2人のみ。新和海運の筧孝彦会長は新会社の会長に就任するが、代表権は外れる。存続会社の社長が副社長に降格し、吸収会社の社長が社長に就任するのはめずらしい。
杉浦氏は日本郵船で企画グループ長、常務、専務、副社長を歴任し、昨年6月に副社長として新和に来た「大物」だ。昨年6月に新和海運に来たばかりで、今年4月1日に社長になったばかりだから、わずか6カ月間の「天下」で副社長に逆戻りすることになる。杉浦氏は51年6月1日生まれでまもなく59歳。
島川氏は2006年6月から現任。新日鉄で厚板営業部長、米国新日鉄社長、技術協力事業部長を歴任したが、新日鉄本体の取締役経験はない。島川氏は1948年6月21日生まれで今年62歳になる。
新社名は「NSユナイテッド海運」(以下、NS海運)。NSはニッポン・スティールすなわち新日本製鉄を彷彿とさせるが、「Nは日鉄海運、Sは新和」(島川氏)と新日鉄からとったものではないと強調する。今年1月に始まった合併協議も、「あくまで両社が主体的に行ったもので、新日鉄には助言をいただいた程度」(島川氏)だという。
とはいえ、今回の合併で、これまで3割にとどまっていた新日鉄関連の新和の貨物が、一気に5割弱くらいにまで高まるのは事実。また、株式交換後の筆頭株主が新日鉄になって、出資比率34.00%でNS海運が新日鉄の持分法適用会社になるなど、新日鉄色はますます強まる(今までの新日鉄は出資比率15.04%で第2位株主)。
一方で、筆頭株主だった日本郵船の出資比率は26.77%から18.78%に落ち、日本郵船は第2位株主となるが、日本郵船の持分法適用会社でもあり続ける。
杉浦社長は「今回の合併は大競争時代を先取りしたもの。世界屈指の外航海運オペレーターへ発展することを目指す」と気宇広大だが、運航隻数は新和100隻に日鉄22隻。1000隻前後の船隊を誇る日本郵船や商船三井など大手との見劣りは否めない。「新和の総合力と日鉄の専門性とを統合する」とも杉浦社長は言うが、それがどこまで顧客に訴求力を持つかは未知数だ。
なお、日鉄海運の前2010年3月期実績は売上高339億円、営業利益39億円。新和海運は合併後の業績見通しを開示していないが、「東洋経済オンライン」では、今11年3月期は下期(10年10月~11年3月期)に売上高180億円、営業利益20億円、来12年3月期は売上高400億円、営業利益40億円の上乗せとなるのではないかと見ているが、これはあくまでも速報値。今後の個別取材を経て、予想数値を変更する可能性がある。
(山田 雄一郎 =東洋経済オンライン)
《東洋経済・最新業績予想》
(百万円) 売 上 営業利益 経常利益 当期利益
連本2010.03 95,106 4,796 4,053 1,215
連本2011.03予 128,000 9,000 8,000 4,500
連本2012.03予 160,000 12,000 11,000 6,000
連中2009.09 45,600 2,450 1,926 1,476
連中2010.09予 56,000 3,500 3,000 1,700
-----------------------------------------------------------
1株益¥ 1株配¥
連本2010.03 7.5 2
連本2011.03予 19.5 4-6
連本2012.03予 26.0 4-6
連中2009.09 9.1 0
連中2010.09予 10.5 0
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら