慎重なトヨタが「HV開発」で他社に先行できた理由 経営陣の無茶ぶりなくして「プリウス」はなし

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こうした状況の中でHVはガソリン車に比べ2倍ほどの燃費を誇る現実的なエコカーとして、今日まで日本だけでなくグローバル市場でシェアを伸ばし、2020年のグローバル市場において電動車の中で50%を超えるシェアを維持している。

1997年に誕生したHVは発売から20年以上たっても電動車の市場で中核的な地位を保っている。それはHVを世に出したトヨタにとっても当初想定もしていなかった事態かもしれないが、この間のトヨタ得意の改善努力のなせる業だったともいえる。

トヨタが今も「EV」にこだわる理由

HVのコア・システムはモーターとバッテリー、PCU(パワーコントロールユニット)だ。発売から20年以上たち、それぞれの部品の性能は格段に上がった。

トヨタによると、モーターの出力は1997年比で200%となり、モーターの体積は50%に減った。つまり体積当たりの出力は400%にアップしたことになる。バッテリーは重さが30〜50%減り、体積は60%減った。PCUのエネルギーロスは80%減り、体積は50%減った。

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それぞれの部品や機構を改善し続けたことで、コア・システムの性能アップとコンパクト化が実現した。その結果としてトヨタのHVの燃費は40%ほど良くなった。こうしたトヨタの改善努力でHVの競争力が増し、エコカーとしての地位を固めていったのだ。

HVの競争力が増したことで、HVの販売台数は2020年に累計1500万台を突破した。販売台数が増えると、量産効果からコスト削減にもつながる。それが更なる競争力になるという好循環が生まれる。

HVのコア・システムはEV、PHV、FCVのコア・システムでもある。量産化されているHVで培った競争力は将来、他の電動車にも波及していく。HVの販売増は今後のトヨタの電動車戦略の競争力を下支えする。それがトヨタが他の自動車メーカーに比べてHVにこだわり続ける所以である。

安井 孝之 ジャーナリスト・Gemba Lab代表

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やすい たかゆき / Takayuki Yasui

1957年兵庫県生まれ。日経ビジネス記者を経て、1988年朝日新聞社に入社。東京経済部、大阪経済部で自動車、流通、金融、財界、産業政策、財政などを取材した。東京経済部次長を経て、2005年に編集委員。企業の経営問題や産業政策を担当し、経済面コラム「波聞風問」などを執筆。2017 年4月、朝日新聞社を退職し、Gemba Lab株式会社設立、フリージャーナリストに。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業 エクセレント・カンパニーからグッド・カンパニーへ』(PHP研究所)など。

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