俳句のプロたちが本気で語る「要素配分の黄金比」 総重量「2.0」を一句の中で分け合う?!

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岸本:どっちかが季語になるのかな。

芭蕉の「古池や蛙飛びこむ水のをと」は何グラム?

夏井:季語が「1」のときもあれば、そうでない場合もありますよね。芭蕉の「古池や蛙(かわず)飛びこむ水のをと」では、「古池」が1で「蛙飛こむ」と「水のをと」が0.5ずつ。

この句は「蛙」が季語としてあまり匂わないというか、春の季節感を感じないのは、「古池」が1で、「蛙」や「水のをと」が0.5になっているからかもしれない。

岸本:「山吹や蛙飛こむ水のをと」を「古池」に変えたわけで、「山吹」という季語から自由になって「古池」というキーワードを見つけた。この句の本質は「古池」と「水のをと」なんですね。「蛙」は軽い。

夏井:「古池」が1、「水のをと」が0.5、「飛びこむ」とか「蛙」が0.2とか0.3とか。俳句って全部で2グラムあれば何とかなる。1グラムはキーワード。残りをいくつかの言葉が分け合う。

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岸本: 言葉の重さですね。季語が0.3でも別に問題ないわけですね。では「遠山に日の当りたる枯野かな 高濱虚子」は、どうでしょうかね。

夏井:うん、すごく面白くなってきた。これは「枯野」が1で。「遠山」もある程度の……。

岸本:0.7ぐらい……。

夏井:そしたら「日の当りたる」が0.2で、「かな」が0.1。でも、この最後の0.1の「かな」が、とても大事な0.1グラム分なんです、みたいな感じですね。

岸本:この0.1は、納豆のネギみたいなものなのかな。

夏井:ここで総量「2.0グラム」の話が出て、わかりやすくなりました。

岸本:自分の句を見直すときに「2.0グラム」という目で見ると、詰め込みすぎかどうかよくわかりますね。

夏井:言葉には質量がある。俳句にちょうどいい言葉の質量は、2グラムぐらいではないか。2グラムしか入らない器に、初心者は山のように言葉を盛ってしまう。「俳句2グラム説」は、その量を客観的に捉えるためのわかりやすい説明となりうるのではないでしょうか。

岸本 尚毅 俳人

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きしもと なおき / Naoki Kishimoto

1961年、岡山県生まれ。俳人。中学時代から俳句を始め、初学時代は「渦」(主宰赤尾兜子)に投句。兜子逝去後、「青」(主宰波多野爽波)入会。「ゆう」「屋根」を経て、現在「天為」「秀」同人。1991年「青」同人賞、1993年句集『舜』で第16回俳人協会新人賞、2009年『俳句の力学』で第23回俳人協会評論新人賞、2012年『高浜虚子俳句の力』で第26回俳人協会評論賞を受賞。角川俳句賞、田中裕明賞、星野立子新人賞、石田波郷新人賞などの選考委員を務める。NHK俳句選者(2018・2021年度)。「岩手日報」「山陽新聞」俳句欄選者。

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夏井いつき 俳人

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なつい いつき / Itsuki Natsui

1957年、愛媛県生まれ。俳人。8年間の中学校国語教諭経験を経て俳人に転身。俳句集団「いつき組」組長。創作執筆に加え、俳句の指導にも力を注ぎ、俳句の授業「句会ライブ」、全国高等学校俳句選手権「俳句甲子園」の創設にかかわり、「俳句の種まき」活動を積極的に行う。「プレバト!!」(MBS/TBS系)をはじめ、テレビ・ラジオ・雑誌・新聞・webなどの各メディアで活躍。松山市公式俳句サイト「俳句ポスト365」選者、「朝日新聞」愛媛俳壇選者、「愛媛新聞日曜版」小中学生俳句欄選者。2015年より俳都松山大使。

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