27歳パチプロ男性が「経営者目線」で語る違和感 アルバイトやリゾート派遣で食いつないできた

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「住み込みのリゾート派遣ではいろんな人と仲良くなれました。家賃もかからないし、朝晩と弁当が出るところもある。(派遣先のひとつだった)温泉宿では途中からアルバイトになり、年末年始バリバリ働いて、1週間でチップ込みで20万円稼いだこともあります。仕事は探せば何かしらあるんです。社会に文句を言うくらいなら、自分で行動して適応していくべきです。自分で選択した結果に文句を言うのはお門違いだと思います」

派遣も悪くはないし、働きぶりを評価されてアルバイトに引き抜かれたと言いたいようだった。ただフミヒロさんが就いてきた仕事は、いずれもILO(国際労働機関)が実現を目指す「ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」とは到底いえない。

社会保険がないのは違法の可能性が高いし、賭け麻雀の負け分を給料から天引きするのは完全にアウトだ。派遣契約期間中に直接雇用に切り替えるのも違法。瞬間的にいくら稼げても、継続的に働けるかどうかわからない働かされ方は典型的な不安定雇用である。私にはフミヒロさんは労働搾取の被害者に見えたし、まともな仕事がない中で「自分で行動」「自分で選択」といっても、それは下手をすると劣悪な職場を渡り歩くだけの結果になりかねない。そう指摘すると、フミヒロさんはこう反論した。

「非正規が増えたのは事実です。でも、経営者の目線に立つと、正規社員をかかえることのリスクは大きいし、すべての企業が法律を遵守していたら日本は立ち行かなくなるのも事実です」

経営者目線に立つ――。実は本連載でも、何人もの非正規雇用の当事者が同じ主張をするのを耳にしてきた。しかし、社長でも、CEOでもない働き手がなぜ経営者目線に立つのか。その発想が私にはまったく理解できない。

資本主義社会において、労働者が商品として提供できるのは労働力だけである。従って労働者と企業の力関係は対等ではない。その格差を補正するためにさまざまな労働関連法が整備されてきたのだ。労働者と企業の間にはアリとゾウほどの力の差があるのに、なぜアリがゾウの目線に立つのか。その忖度が劣悪な非正規雇用や不当な解雇、雇い止めにはしる一部の企業の増長を許してきたといったら、言い過ぎだろうか。

パチプロを辞めたい理由

しかし、フミヒロさんは「(企業側のやり方を)受け入れる代わりに何も考えない“楽さ“を得てきたんだと思います。そしていったん受け入れたなら、文句を言うなというのが僕の考え」と譲らない。パチプロになったのも、文句や不満を言わずにすべてを受け入れてきた結果というわけだ。

そのうえで、フミヒロさんには普段から自らに言い聞かせていることがあるという。「才能がないならないなりに努力をしろ、すべての責任は選択した自分にある」。 これもまた典型的な自己責任論の内面化のように、私には思えた。

フミヒロさんはパチプロを辞めたい理由について「パチプロには社会的信用が一切ないからだ」と説明する。たしかにこれから就職活動をするにしても、履歴書にパチプロとは書けないだろう。そのほかにも終日台に座り続けるのでパチプロを始めてから体重が50キロ増えてしまった。「このままではどんどん社会との距離が広がって、いつか後戻りができなくなるような気がするんです」とフミヒロさんは話す。

結局、フミヒロさんとの働き方をめぐる議論は平行線だった。一方で取材後、フミヒロさんからはこんな趣旨のメールが届いた。

「『才能がないならないなりに努力しろ』という言葉ですが、本当に強い人はそういうことは言わないかもしれません。強がる人が言う言葉だと思います。これは、強くあろうとする自分を鼓舞するため、自分を肯定するための盾でもあるんです」

フミヒロさんが望む正社員。そこでは今以上に自らを鼓舞しなければならないだろう。そんな社会のいびつさを一番身に染みて感じているのは、フミヒロさんなのかもしれない。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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