日経平均株価が「ほぼ底値をつけた」と言えるワケ 「インフレ懸念念仏」ははたして正しいのか
そこでまず前出の1)について、ドルに換算した日経平均株価をニューヨークダウで割った比率(ただし桁を合わせるため、ドル建て日経平均を100倍している)を日々で見ると、ピークは2月16日の0.91倍だった。
一方で日米企業収益の実態は、アメリカの方が収益見通しのアナリストによる上方修正度合いが急速であったため、日本の株価が買われすぎていたといえる。
その日経平均の相対的な買われすぎがその後、巻き戻しに入り、5月13日までの日経平均の急落で同比率は0.74倍まで下押しした(直近の5月21日は0.76倍)。コロナ禍前の2020年初辺りは0.75倍で推移していたので、調整はほぼ終わったようにも思われる。
2)については、ナスダック総合指数をS&P500指数で割った比率を見ると(以下は週平均値ベース)、ピークは2月12日に終わる週の3.58倍だった。これは近年のピークで、かつITバブル期の3.62倍(2000年3月)に肉薄するほどの買われすぎであった。
これも、直近に至るまで巻き戻しに入った、と解釈できる(金利上昇のせいではない)。同比率は先週段階では3.24倍となっている。
さらに3)を見ると、NT倍率(日経平均株価÷TOPIX)は、2月25日には15.66倍にまで上昇し、近年の最高値を記録した。そうした日経平均株価の相対的な買われすぎがやはり解消に向かい、同倍率は反落した(3月22日には14.66倍まで低下し、その後は上下動、5月21日は14.87倍)。
つまり、内外の経済や企業収益に深刻な悪い変化があったから、5月第2週に主要国の株価が大きく下落した、ということではない。2月まで物色の歪み(日本株優位、ナスダック優位、日経平均優位など)が進行し、その後にその歪みの解消がじわじわと続いていたわけだ。
そうした「正常化」が、アメリカのインフレ懸念や金利上昇懸念を単なるきっかけとしてドカンと爆発し、株式市況全体への大きな下押し圧力となった、ということなのだろう。
年末に向けては、緩やかな株価上昇基調を予想
ごく目先は不安にとらわれる投資家が多く、傷ついたポジションの整理もまだ残っているだろう。そのため今度は、例えば「暗号通貨相場の下落が心配だ」などと、新たな売りの口実を引っ張り出して、日米等の株式を売る向きも多くあることと思う。
確かに不安定な株式市況の「残渣」はあるだろう。それでも、主要国の経済や企業収益は、昨年4~5月を大底とした回復軌道をしっかりとたどっている。
アメリカでの金融緩和縮小をめぐる「から騒ぎ」はまだ続きそうだが、連銀は粘り強く緩和を維持すると語っている。4月に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)の議事録が先週公開されたが、緩和の出口を先行きのFOMCで議論し始めるかどうかを議論し始めた、といった段階だ。
金融緩和が株価を支える状況も、おおむね今年は変わるまい。このため、年内は主要国の株価の緩やかな上昇基調を見込む。
「過度のインフレ、長期金利の大幅なハネ上がり、あるいは先日のアルケゴス・キャピタル・マネジメントの運用失敗のような、リスクを過度に取った投資家の破綻などは、懸念要因ではないか」と問う向きもあろう。金融緩和による資金余剰や低金利下の投資家の運用難が、さまざまな歪みを生じていることは事実だ。
ただ、そうした要因が本格的に牙をむくのは、今年ではなく、連銀が本当に緩和の出口を出ると見込まれる、来年だろう。今年引き起こされたちょっとした市場波乱は、来年の本格的な大波乱の「予行演習」と位置づける。それまではもちろん、そのときが来ても、当コラムをご愛読し続けていただければ、と願っている。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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