FRBとECBの金融政策正常化スケジュールを読む インフレ警戒と緩和縮小、出遅れた円の行方

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しかし、タイミングがスタッフ見通しの改訂時ということになると、「いつでもブレーキ/アクセルを踏める」という裁量の大きかったPEPPの利点を減じるものだと筆者は考えている。6月会合でECBは早速難しい環境に立たされることになる。

3月と比べれば6月に公表されるスタッフ見通しではワクチン接種の進展と行動制限の解除が大幅に織り込まれるはずである。3月時点の状況と見通しを勘案したうえで「かなり速いペース(a significantly higher pace)」とアクセルを踏んだのだから、6月は「少し遅いペース(a bit slower pace)」などの文言でブレーキを踏むのが論理的である。

3月政策理事会直前の1カ月間でPEPPの週平均購入額は145億ユーロだったが、現時点では167億ユーロまで増えている。約プラス15%のペースアップが果たされた格好だが、域内利回りの落ち着きなども踏まえれば、これを緩めてくる可能性はある。

「あくまで域内金利を抑制し、好ましい資金調達環境を維持するのが目的であって、PEPPの購入額はその手段(結果)にすぎない」というのがECBの基本認識だろう。それは正論である。しかし、インフレ懸念の高まりをテーマ視する現在の金融市場でPEPPのブレーキを踏めば、「ECBも事実上、テーパリングに踏み込む」と騒ぎ立てられるリスクはある。そのこと自体が、もともと堅調なユーロ相場をさらに押し上げる公算が大きい。

ECBは新戦略と同時にテーパリング公表か

現在、公式にはPEPPの終了期限は2022年3月末である。そのタイミングで終わるためには少しずつ減速(テーパリング)して、ゼロに軟着陸させる必要は確かにある。だが、PEPPは従来のような月間購入額が固定された枠組みではなく、週間購入額を自在に調整できる枠組みである。年明け以降であっても小刻みに毎週ブレーキを踏めば2022年3月末の着地に十分間に合う可能性はある。2022年3月末という着地は少し延ばしつつテーパリングという手もありうるかもしれない。

なお、秋ごろには遅延していたECBの新たな金融政策戦略見直しが完了する予定であるから、その公表と同時にテーパリング方針を示すことが新時代のECBのあり方を語るにあたっても、最適のタイミングとなるように思われる。FRBが9月にテーパリング方針を決定し、12月から着手するとすれば、ECBは12月のスタッフ見通しに合わせて同方針を決定し、年明けから少しずつ購入額を漸減させるのではないか。

いずれにせよ、遅れた日本のワクチン接種が今の欧米並みになるだろう今秋以降、欧米金融政策のテーマはすでに正常化プロセスに移っている可能性は高く、今以上に円が手放されやすい相場環境が予想される。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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