FRBとECBの金融政策正常化スケジュールを読む インフレ警戒と緩和縮小、出遅れた円の行方
カギを握るのは物価ではなく雇用になるだろう。最新のFOMC(連邦公開市場委員会)議事要旨(4月27~28日開催分)では「多くの参加者(a number of participants)は経済が目標に向かって急回復(rapid progress)を続けるのであれば、来るべき会合のどこかで資産購入ペースの調整計画を議論し始めることが適切であると提案した」との記述が注目された。
この「急回復」はおそらく物価情勢ではなく雇用情勢を見て判断される公算が大きい。周知のとおり、FRBの責務は「物価の安定」と「雇用の最大化」の2つだ。この点、雇用・賃金情勢は回復基調とはいえ、まだ深手を負ったままだ。
トランプ政権後期の失業率は3.5%とほぼ完全雇用状態を実現していたにもかかわらずインフレは加速しなかった。雇用市場が最も逼迫していたとみられる2019年でもコアCPI上昇率は2.5%に届かなかった。現在、失業率は6%近くもあり、制御不能な物価上昇を警戒するのは尚早だろう。数字を見ても、まだアメリカ経済として取り戻すべき雇用の「量」は大きい。
雇用の急回復で8月ジャクソンホールが山場に
例えばリーマンショック時の景気後退局面は2007年12月を「山」とし、そこから26カ月(2010年2月)で約マイナス870万人という雇用喪失に直面し、これが最悪期だった。その雇用喪失が完全に復元(≒「山」から起算して増減がゼロまで改善)されたのが77カ月後(2014年5月)だった。今回は「山」から14カ月後となる2021年4月時点ですでに約マイナス820万人という雇用喪失に直面している。
前回の正常化プロセスを振り返ってみると、喪失した雇用を完全に取り戻す1年前の2013年5月にバーナンキ元FRB議長が議会証言で量的緩和の縮小(テーパリング)に言及した。俗に「バーナンキショック」と呼ばれる混乱の原因だ。バーナンキショック時で雇用喪失はマイナス230万人まで圧縮されていた。つまり7割程度は雇用を回復させたところで宣言されたのである。
この点、今回の不況における雇用増減ペースは経験則がまったく当てはまらない不規則なものであることに注意が必要だ。本格的な行動制限解除が期待される夏場以降、驚くほどのペースで雇用が増加する可能性がある。現状、雇用統計は断続的に悪化が見られているが、求人数は確実に伸びているからだ。
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