FRBとECBの金融政策正常化スケジュールを読む インフレ警戒と緩和縮小、出遅れた円の行方

拡大
縮小

堅調な労働需要にもかかわらず雇用の量的な回復が進まない背景として、手厚い失業保険給付の存在が指摘されている。アメリカ商務省は5月7日付の声明文で週300ドルの失業保険上乗せ給付によって、「受給者の4人に1人が働くよりも得な状況に置かれている」と指摘し、これを打ち切ることが人手不足解消に寄与すると述べている。

筋論から言えば、失業保険など一部の財政政策が縮小されたあとに、雇用の増勢が確認されたら、金融政策も縮小に踏み込むという展開が想像される。おそらく、そのタイミングとして今年8月のジャクソンホール経済シンポジウムで金融政策に言及があり、年内には着手が始まるという金融市場の観測は相応に合理的だと筆者も思う。

ECBは年内着手なし、でも市場は落ち着かない

ECBのPEPPの購入ペースをめぐって市場は動揺も(写真:Bloomberg)

一方、ECBはどうか。ユーロ圏は昨年10~12月期に続き、1~3月期もマイナス成長を記録し、テクニカルにはリセッションに陥るなど、状況はアメリカと対照的である。

だが、大陸欧州では4月以降の行動制限解除が順調に進んでおり、EUとしてのワクチン調達戦略も固まり始めている。米英には遅れたものの、ドイツでも7月中に希望する国民は全員接種が完了するとの報道も見られる。

こうした状況下、筆者のところへはECBのテーパリングについての質問が寄せられている。結論から言えば、ECB総裁会見やその他高官の言動を踏まえる限り、公式にその方針が決定される可能性は低い。例えば5月18日、ラガルドECB総裁は「金融および財政支援を性急に解除しないことが不可欠だ」と断言し、他の域内中銀総裁からも類似のコメントが複数聞かれた。

確かに、ユーロ圏でも消費者物価指数(HICP)の上振れが見られるが、その6割はエネルギー価格の対前年比というベース効果であり一過性の動きであることは明らかだ。おおむね賃金と同一視できるサービス物価に関しては同プラス0.9%と冴えないままで、物価情勢を理由にしてECBがテーパリングを検討する可能性はやはり低い。

しかし、可能性は低くても、金融市場が疑念を強める可能性はある。というのも、3月の政策理事会でラガルド総裁は四半期に一度、スタッフ見通しが改訂されるタイミングに合わせてパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の購入ペースを見直す方針に言及しているからだ。

ECBの現在の思考回路は「無リスクである政策金利の水準を決める→国債利回りが決まる→社債や銀行貸出の利回りが決まる」というものだ。こうした一連の流れを視野に入れて政策運営を包括的(holistic)に点検し、複数の指標を考慮する多面的(multifaced)な視点が重要だとラガルド総裁は再三述べている。

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