ムーディーズがトヨタ自動車の格付けを引き下げた理由《ムーディーズの業界分析》

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格付けを支える要因

一方、ムーディーズが同社の格付けを支える要因は、次のようなものである。
(1)非常に強固なバランスシート:09年12月末の有利子負債対キャピタリゼーション比率は約17% (金融子会社分の負債を除いた調整ベース)。
(2)潤沢な流動性:09年12月末には、約2兆5067億円の現預金および約3兆5917億円の有価証券を保有。
(3)事業ポートフォリオの特徴:多岐にわたる製品ラインナップ、事業の地理的分散が認められ、主要市場で主導的な地位を確立している。

このようにムーディーズは、トヨタ自動車が今後数年間、世界の主導的な自動車メーカーであり続けるものと予想している。また、ムーディーズは、日本の大手企業は非常事態が起こった際に、銀行などから必要なサポートを受けられる可能性があるものと想定しており、トヨタ自動車の格付けにも、この想定がプラス要因として織り込まれている。この想定によって同社の格付けは、ファンダメンタルな信用力の水準から1ノッチ引き上げられている。

格付け見通しをネガティブとした理由

格付けの見通しをネガティブとした理由は、トヨタ自動車の収益性が現在の格付けにふさわしい水準よりも依然として低く、上記のとおり、少なくとも12年まではその水準まで回復しない可能性があるとみているためである。

さらに、同社が収益性を回復する過程で直面するさまざまな課題は次のとおりである。需要の低迷、余剰設備、売り上げ拡大のための通常を上回るインセンティブ(販売奨励策)、そして、今回の品質問題が価格優位性を大きく損なわせた可能性があること、などである。

ムーディーズは、これらの問題が発生したことにより、同社の営業利益率が持続可能な状態にまで回復するか、そしてそのタイミングがいつになるかを予測するのが難しくなっており、また、収益性がこれほど不確実な状態は、Aaの格付けが付与されている企業には非常にまれであると考えている。

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