WHOも先月末、ウェブサイト上にこれを明記した。だが、科学者たちが空気感染のエビデンスが「合理的な疑いを超えて」示されていると広く警告を発したのは、昨年7月のことだ。32カ国・239人のさまざまな専門分野の科学者(ウイルス学、疫学、エアロゾル物理学を含む)が、WHOに「空気感染の潜在リスクを認識すべき」との公開書簡を送った。
当時、WHOは「近距離でのエアロゾル感染が起きる可能性を排除できない」としていたが、ここへ来てようやく「ウイルスを含んだエアロゾル」による感染を正面から認めた形だ。5月7日にはCDCも、「エアロゾル粒子の吸入」を新型コロナの感染経路として明記している。
マスクの効果はウイルスごとに違う
マスク着用が日常となった現在、その効果にあえて疑問を持つ人は少ないだろう。一方で、「白い眼で見られるから」「なんとなくマナーとして」といった以上の考えもなく、体面あるいは習慣で身に着けている人も多そうだ。
たしかに新型コロナ以前は、インフルエンザ予防においてマスクは「人に感染させないためには有効だが、感染から身を守る効果についてはエビデンスがない」との知見止まりだった。しかし、新型コロナをきっかけに、マスクの感染予防効果が世界中で注目され、ホットな科学研究対象となった。
昨年4月に「Nature」に発表されたアメリカ・メリーランド大学の論文では、サージカルマスク(外科用不織布マスク)は、症状のある感染者からの新型コロナとインフルエンザの感染を予防できる効果が示されている。
呼吸器症状のある3000人以上を検査し、コロナ、インフルエンザ、ライノのいずれかのウイルスが検出された246人を対象に、実験が行われた。結果、マスクはエアロゾル中のコロナウイルスと飛沫中のインフルエンザウイルスの検出を大幅に減少させた。また、コロナについては飛沫中のウイルスも減少傾向が見られた。
興味深いのは、新型コロナについては飛沫よりもエアロゾル感染の予防効果が高かったこと、またインフルエンザでは飛沫感染の予防効果は明白だったが、エアロゾル感染については有意差が得られなかったことだ(これまでの知見と整合する)。さらに、一般的な風邪の原因の1つであるライノウイルスについては、飛沫でもエアロゾルでも有意差がなかったという。
このように未知のウイルス感染症である新型コロナについては、知見が日進月歩でめまぐるしく更新されていく。昨日の“常識”が今日も“常識”とは限らない。
最前線で医療に従事する者として肝に銘じ、これからも勉強を重ねつつ目の前の患者さんと向き合っていくつもりだ。
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