気になるのは、報告時に無症状だった人の割合だ。1回目の接種後に診断された感染例のうち無症状例は20.0%だった。一方、2回接種完了後の感染では、報告時に無症状例だった割合は40.7%に達したという。
「自分はもう打ったから……」と油断していて万が一にも感染した場合、無症状・無自覚のままウイルスをばら撒いてしまいかねない、ということだ。社会全体での接種率の低い日本では、家庭内を含めた外部のコミュニティに飛び火しないほうが難しい。
接種が完了した人であっても当分の間は、ソーシャルディスタンス、マスク、手洗いの徹底と、場所や状況によっては行動自粛を継続するしかないだろう。こうした認識が共有できていないとすれば、同じ医療従事者として言葉を失う。
空気感染とほぼ同義の「エアロゾル感染」
新型コロナが発生し世界に広がり始めた当初、この未知のウイルスから身を守る術は手探りかつ不十分だった。患者等のデータの蓄積がなかったため、初期症状の似ているインフルエンザに関する知見を準用するしかなかった。
その後の研究によって認識が大きく変わったのが、エアロゾル感染と、マスクの効果だろう。
インフルエンザの場合は、基本的には接触感染のほかは「飛沫感染」に注意すればよいとされてきた。感染した人のくしゃみや咳で出るしぶきを浴び、粘膜にウイルスが付着することで起きる感染だ。ただし飛沫は直径が比較的大きく、すぐ地面に落ちるため、感染者の顔から1~2mの距離にいなければ飛沫感染のリスクはそれほど高くない。
これに対し新型コロナでは、「エアロゾル感染」の実態が明らかになってきた。
エアロゾルとは、飛沫より小さく、例えば雲の粒や、日本に飛来する黄砂あるいはPM2.5レベルの大きさの粒子だ。小さく軽いため、空気中を飛沫より長時間漂い、より遠くまで達することもある。新型コロナウイルスでは、空気中に漂うエアロゾルの状態で、3時間ほど感染力を保っていることが報告されている(4月16日New England Journal of Medicine)。そして、飛沫と異なり、2メートル以上離れていても、エアロゾルは飛んでくるのだ。
新型コロナでは、「感染者の気道から呼気と共に吐き出される水蒸気にウイルスが含まれ、空気中を漂った末にエアロゾル感染を引き起こす」というのが、新たな科学的知見だ。用語の明確な定義がないため混乱もあるが、世界的には「エアロゾル感染」と「空気感染」という言葉をほぼ同義と捉えるようになっている。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら