「子供は挫折で育つ」とプロ指導者が実感した理由 仁志敏久が明かす「負け戦」が与えてくれるもの

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しかし、私にはその光景が微笑ましく、嬉しい気持ちでいっぱいになりました。じつは、私の中には「どんな終わり方をするのか」というテーマもありました。勝って大喜び。負けて大泣き。大活躍だった、打たれてしまった、打てなかった、ミスをしてしまったなど。さまざまな筋書きのない終わり方が訪れます。

どんな最後を迎えるかによって、話す内容も伝え方も変わります。もちろん勝つに越したことはありません。しかし、順位決定戦などの試合に勝ってまずまずの成績で終わるよりも、優勝を逃す、あるいは悔しい敗戦という結果のほうが子供たちにとっては今後の成長の糧になるものです。

中途半端に自信が芽生えるくらいなら、課題を残して終わったほうがさらなる高みをめざしていける。日本にもまだまだ自分たちよりも上手な子がいるだろうということは薄々わかってはいるとは思いますが、もっと視野を広げて「世界はどうか」と考えてほしい。

高い目標ができ、それによってやるべきこと、考えるべきことが変わってくるからです。彼らはまだまだ世界に向かうには早い年齢ですが、その意識をもち実際に行動していけば、いずれ必ず周囲との差を生むと思うのです。

そういう意味で、いつまでも泣いている子を見て、希望を感じたのでした。

子供にもプライドがある

スポーツというのは時に残酷です。勝者と敗者には、どんなに慰められても縮まらない距離があります。「負けて悔いなし」「さわやかに散る」など、日本には敗者を称える言葉もありますが、全力でプレーし、実力をいかんなく発揮したうえで負けてしまったとしたら、上をめざしたい選手にとってはこれほど悔しい結果はありません。

「いい試合だった」「みんな胸を張って帰ろう」

私たちも子供たちにはそう声をかけることがありますが、それ以上かけられる言葉が見つからないというのが本音でもあります。もちろん、涙が止まらない子供たちは、おそらくそんな言葉くらいでは「そうだな、よくやったよな」とはすぐには切り替えられないでしょう。

「子供なんだからいい思い出でいいじゃないか」などと言う人もいます。しかし、子供たちにもプライドや自信、試合にかける思いはあり、それは大人と大差はありません。

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まだ小さな心の中に、いま考え出せる目いっぱいの思いを詰めて戦っています。もしかしたら、人生経験が少ない分、負けた時のショックは大人よりはるかに大きいかもしれません。どれだけ泣いても変えられない現実がただただ悲しく悔しい。その思いは痛いほどよくわかります。子供たちにとっては初めての大きな挫折かもしれません。

「まだまだ敵は多い。もっと高いところをめざさないとまた負けてしまう」

そんな思いを抱いて次に向かってほしい。勝利を求めつつ、涙から新たな感情を見出してほしいとも思う。成長して「あいつは強い」と言われる人は、そんな経験をたくさんしています。

なんとも勝手で、矛盾した監督ですが、子供たちのこれからに効く刺激を与えて終わりたいといつもひそかに思っています。

仁志 敏久 横浜DeNAベイスターズファーム監督

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にし としひさ / Toshi Nishi

1971年生まれ、茨城県出身。常総学院高では夏の甲子園に3年連続で出場。卒業後は早稲田大、日本生命へと進み、96年に読売ジャイアンツに入団。強打の内野手として活躍し、1年目で新人王を獲得。その後ゴールデングラブ賞4回、日本シリーズ最優秀選手など数々のタイトルに輝いた。2007年に横浜ベイスターズに移籍したのち、10年にアメリカ独立リーグへ移籍するも、同年ケガにより引退。14年より侍ジャパンU-12監督を務め、「第5回WBSC U―12ワールドカップ」で過去最高成績の準優勝に導く。21年より横浜DeNAベイスターズファーム監督に就任。

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