茨城一家殺傷事件は「第2の酒鬼薔薇事件」なのか 「人を殺してみたい」衝動を押さえられない?

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岡庭容疑者は、昨年11月に自宅に硫黄約45キロなどを貯蔵したとして埼玉県警に逮捕され、さいたま地検が12月に消防法違反の罪で起訴している。硫黄は猛毒の硫化水素を発生させるだけでなく、爆薬に使用できる。

その際の家宅捜索では大量の硫黄のほかに、猛毒のリシンを含有するトウゴマや抽出に使う薬品など毒物と、100本以上の刃物など約600点が押収されている。今年2月には警察手帳の記章を偽造した疑いで茨城県警が逮捕、3月に水戸地検が起訴している。

その過程で事件と岡庭容疑者の関わりが浮かび上がる。

現場周辺から見つかったレインブーツの痕と、岡庭容疑者の履いていたものが同じであったこと、次女が吹き付けられたものと同一成分の熊退治スプレーを岡庭容疑者が購入していたことが明らかになった。

岡庭容疑者のスマートフォンからは、事件前に被害者宅の周辺を撮影したとみられる動画が見つかったこと、犯行時は雨で、事前に岡庭容疑者が現場周辺の天候を検索していたことも報じられた。雨であれば争った音もかき消されるとの見立てだ。それだけ計画的だったとして捜査が進む。

サリンの生成に関する本やトリカブトが見つかった

さらに今回の事件で逮捕後に、再び自宅を家宅捜索したところ、サリンの生成に関する本や有毒植物のトリカブトが見つかっている。そうした事情からも、岡庭容疑者が人を殺すことに、異様なまでに執着していたことが推察される。その衝動が抑えきれなかったのか。だとすると、他人の気持ちや心が理解できないでいる。

医療少年院を出て間もない犯行であるとすれば、寛解にも疑問がつく。措置入院となって退院したあとに、45人を死傷させた知的障害者施設「津久井やまゆり園」を襲った事件の植松聖死刑囚と同じだ。医療施設が本来の役割を果たせないでいる。

発達障害だから殺人を犯しやすい、などというつもりは毛頭ない。人を殺したい衝動にかられても、踏みとどまれるかどうかの問題だ。ただ、時としてその一線を越えてしまう人たちもいる、ということを知っておくことも必要なはずだ。

後編(5月21日配信予定)に続く

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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