「体験」にこだわったマーケティング戦略
嶋:「ユニフォームを着る文化を根付かせる」ための具体策として、全国各地でパブリックビューイングを実施したのが、すごいと思いました。パブリックビューイングがあれば、いやがおうにもユニフォームが着たくなりますものね。何カ所くらいで開催したのですか?
星:3~6月にかけて、トータルで約100カ所です。
嶋:3カ月で100カ所のイベントですか? すごすぎる!
河合:過去のデータを見ると、FIFAワールドカップ開催直前の5月にならないと、ユニフォームが売れにくいという現象がありました。しかし、今回は4月末の時点で前回同期比約7倍も売れています。また、前回までのデータでは東京や大阪など大都市部が売り上げの中心という状況もありました。要は、実際に代表の試合が行われる場所です。
嶋:だから今回のパブリックビューイングは大都市圏だけでなく、全国各地の地方都市での開催にこだわったんですね。それが100カ所という会場での実施につながった。
星:そうです。このプランニングをする前にリサーチをかけたところによると、ユニフォームを着る理由の1位は、「着る機会があったから」です。一方、着ない理由は「着る機会がなかったから」。アディダスが手掛けるほかの商品もそうですが、購入されるお客様には必ず「体験」が提供されます。サッカー日本代表のユニフォームにもそうした「体験」がなければいけません。ですから、ユニフォームを着て一緒に応援し、「円陣」の体験を提供することにこだわりました。
嶋:しかし、ユニフォームを売るマーケティング上の課題は明確だったわけですが、実際にパブリックビューイングを全国で実施するとなると大変ですよね。
星:会場を押さえたり、全国の取引先と組んで店頭を作ったり、ポスターを張ったり、新聞に折り込みを入れたりと、やることが多くて大変でした。滋賀県長浜市で実施した際は、地元の取引先、自治体、市のサッカー協会や商工会議所など、多くの皆様にご協力いただき、総人口約12万人のうち5700人の方々に来場いただきました。ご協力いただいた地元の皆様からも「ここまで集まると思わなかった」というお言葉をもらえてうれしかったです。また、全国の主なイオンモールで開催できたことも、大きな後押しになりました。
河合:岩手県陸前高田市でもパブリックビューイングを実施しました。アディダスでは東日本大震災の被災地支援を積極的に行っているのですが、その中で「仮設住宅では大きな声を出して応援できない」という意見があったんです。ならば皆で応援して楽しめる場所を作ろうということになりました。
嶋:忙しすぎて、家に帰れなかったのではないですか?
星:3月はほとんど帰って来られませんでしたね。(笑)でも、5、6月にはある程度、作業を分担してできる体勢を整えることができました。
河合:マーケッターというより、イベンターですよね。星がマーケティングとパブリックビューイング全体のリーダーだったのですが、マーケティングのメンバーだけでは足りないので、違う部署にも手伝ってもらいました。物流の人間が、パブリックビューイング会場で太鼓をたたいていたり(笑)。
嶋:地元のスポーツ販売店と連携してパブリックビューイングを開催するという徹底した流通戦略がすごいですよね。ユニフォームを着て応援する場が売り場の近くにできるわけですから。でも、場所によって流通の形態が違ったり、自治体との関係が違ったり、100カ所は大変だったでしょうね。
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