背中に配した“あの線”に込められたコンセプト
嶋:今回のワールドカップでは、街中で日本代表ユニフォームを着ているサポーターを見かける機会が多かったように思います。まずはユニフォームのコンセプトを教えてください。
星:今回のユニフォームのコンセプトは、「円陣」です。ひとつ前のユニフォームでは、選手とサポーターをひとつにする「結束の1本線」ということで、正面に赤い線を施しました。今回のユニフォームは背中の肩部分に毛筆の1本線を配し、選手が円陣を組むときにひとつの輪になるようにデザインしました。
嶋:あの線は印象的でしたよね。この赤はさし色としてもチャーミングだし、女性にも受けそうです。
星:ありがとうございます。アディダスはグローバルで「all in or nothing(すべてをかける時がきた。)」というキャッチコピーを掲げています。「日本代表が、すべてをかけることを表現する瞬間はいつだろう」と考えたときに、最高潮に気持ちが高まる試合前の円陣だろうと考えました。サッカーにかかわらず日本では、さまざまな場面で円陣を組みます。たとえば、アーティストもライブ前に円陣を組みますよね。そうした日本人にしみ付いた文化を踏まえて、日本サッカー協会様と一緒にコンセプトとデザインを作り上げました。
河合:デザインにかかわった商品企画の担当は、もともとブランドマーケティングの部門にいた者なんです。結果論ですがマーケティングを考えるうえでも、この円陣というコンセプトは、サポーターとの最終的なコミュニケーションをイメージしやすいものでした。
嶋:選手たちの反応は?
星:リアクションは総じてよかったと聞いています。
河合:たとえば香川真司選手から「新しいユニフォームは、着用した感じが軽くて体にフィットするので、よりシャープなプレーができると思います」というコメントなどをいただきました。選手から機能面について評価してもらえたのは、とてもうれしいです。
嶋:円陣というコンセプトを紹介する印象的なプロモーションムービーも作られていますよね。しかも、主人公は女性! 女性がユニフォームを着ると、日本代表とフィールドで円陣を組むという設定は、選手の円陣がサポーターに広まっていく感じがうまく表現されていると思いました。
星:今回のFIFAワールドカップに向け、アディダスでは管理部門なども含め全社で横断的な専門チームを組織しました。ビジョンとして掲げたのは、「日本全国でユニフォームを着て応援する文化を定着させる」ということ。欧州や南米では、試合の日に、ナショナルチームのユニフォームを着て公園で遊ぶ人の姿をたくさん見ることができます。日本にもそうした文化を根付かせるには、幅広くファン層に浸透させる必要があると思いました。そういうこともあり、主役に女性を起用したのです。
河合:実は社内では「男性では駄目なの?」という声が出たのです。でも、嶋さんのおっしゃるとおり、日本中のサポーターが一緒になって戦うというコンセプトを伝えるためには、一般の女性が円陣に加わる表現がいいということになり、あのムービーが出来上がりました。
嶋:自分たちでも円陣を作ってみたんですか?
河合:しょっちゅうやっています。僕らの間でも恒例の儀式です。
星:まずは僕らがやらないと誰もやってくれないと思ったので、ことあるごとに円陣を組んでいました(笑)。
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