やたら敵作る「徳川慶喜」期待を何度も裏切る真意

開国派なのに暴言吐いて攘夷望む朝廷側で奮闘

慶喜が京に上ると、東本願寺に有力な藩の代表者たちが集まり、連日話し合いが行われるようになった。例のごとく、いつの間にか中心人物として扱われる慶喜。一方で、薩摩藩の発言力も高まっていた。

長州藩の宮中支配にうんざりしていた中川宮(朝彦親王)が、薩摩藩と手を組んで、孝明天皇にも同意をとりつけたうえで、長州藩を京から追い出したためである(八月十八日の政変)。

話し合いの場には、政事総裁職を辞めた慶永の姿もあった。慶喜と一度は決裂したが、再び京に入った慶喜を最初に訪問したのが、慶永である。慶永が聞きたかったのは、慶喜が薩摩藩についてどう思っているかだった。

「薩摩のことをお疑いになっているのか」

薩摩が政治的野心を持っていると警戒しているのか、ということだ。慶喜はこう答えた。

「幕府は大いに疑っていたし、私も同様だったが、疑ったところで何もよいことはないので、もう疑うことのないようにしている」

慶永からすれば、長州がいなくなり、過激な尊王攘夷派が京から立ち去った今こそ、有力大名がまとまるべきとき。そのためには、慶喜が薩摩藩と敵対しては困ると考えたに違いない。慶喜の冷静な見解には、ほっと胸をなでおろしたことだろう。

自分の方針は「中興」ではなく「創業」

その後も話し合いは薩摩藩の島津久光が主導して進んでいく。あるときは、久光からこんな提案がなされた。

「優柔不断な公卿たちでは、何も決められない。この際、諸侯たちも入れて、議奏に加えてはどうだろうか」

もちろん、集まっているメンバーには異議はない。松平容保、松平慶永、伊達宗城、山内豊信、そして、徳川慶喜と島津久光が朝議参与に任じられた。朝廷だけではなく、幕府の意思決定にも関与することになったのだ。

ついに新しい世の中が始まる――。幾度となく、慶喜に期待を裏切られた慶永も興奮したのだろう。朝議参与の仕組みをつくるために薩摩藩が朝廷と交渉している最中、慶永は慶喜にこんなことを聞いている。

「今の時勢に合うのは、中興の精神か、それとも創業の精神か」

これに対して、慶喜は「自分の方針は、中興ではなく、創業のほうにある」と断言。またその理由について、こんなふうにも語っている。

「中興ならば、今までしたことは採らねばならぬ。だが、創業ならば、規則もなければ慣例もないのだから、善いと思ったことはすぐやれる」

これでようやく足並みがそろった。今度こそ慶喜が覚醒した。新しい世になると、慶永は確信したことだろう。

だが、その思いは無残にも打ち砕かれることになる。そう、またもや慶喜によって、である。

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