保存めぐり注目「高輪築堤」が持つ歴史的価値 国内初の鉄道の遺構、日本近代化の生き証人

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一方、JR東日本は2020年9月に考古学や鉄道史などの有識者で構成される高輪築堤調査・保存等検討委員会を発足させ、7回にわたって委員会を開催して検討を加えていたが、橋梁部を含む約80mおよび公園隣接部約40mの2か所を現地保存、信号機土台部を含む約30mを移築保存、その他の箇所については記録保存したうえで取り壊すという調査・保存方針をとりまとめ、今年4月21日に発表した。

出土した信号機土台部分の様子(写真:JR東日本提供)

すると日本考古学協会の辻秀人会長は同日、「保存状態の良い築堤跡と信号機跡は、歴史的重要性の高いものであり、現地で一体的に保存することでその価値が保たれ」るとして、それらを破壊する方針を決定したことについて抗議するとともに、改めて開発計画の抜本的な計画見直しを要望する声明を発表。JR東日本と学術団体が真っ向から対立する格好となっている。

「商業的価値」で決めるものではない

コロナ禍で鉄道収入が大きく落ち込み、鉄道以外の事業の拡大が急務となっているJR東日本にとって、高輪ゲートウェイ駅を中心とする品川開発プロジェクトは社の命運をかけた一大事業であり、2024年度を予定している街開きは譲れない一線だ。また、橋梁部を含む約80mを現地保存するための超高層ビル1棟の設計変更に300~400億円を要する見込みで、国などに財政支援を求める構えだ。

JR東日本による橋梁部の現地保存のイメージ(画像:JR東日本提供)

開発と保存は必ずしも二項対立ではない。日本考古学協会が「築堤跡を高輪の新しい街並みの中核に組み込む」ことで「この地の築堤上を走る汽車を描いた明治の錦絵のように、高輪は誰もが訪れてみたい斬新な魅力に溢れる場所となる」と訴えるように、高輪築堤を開発に組み込むことで、鉄道事業者が開発する唯一無二の街になるとの期待の声は大きい。

ただ、一時の目新しさはあっても、開発の縮小分をまかなうほどの効果は期待できないとの指摘もあり、両者の意見は平行線をたどったままだ。

いずれにせよ、高輪築堤は商業的価値がないから潰す、あるいはあるから遺すといった類のものではない。私たち一人ひとりが理解したうえで、記録としてなのか、実物としてなのか、どのような形で後世に遺していくかを考えなければならない。

枝久保 達也 鉄道ジャーナリスト

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えだくぼ たつや / Tatsuya Edakubo

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)勤務を経て2017年に独立。鉄道ジャーナリスト、東京の都市交通史の研究などで活動する。

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