保存めぐり注目「高輪築堤」が持つ歴史的価値 国内初の鉄道の遺構、日本近代化の生き証人

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工事はイギリス人技師エドモンド・モレルの指導のもとで進められたが、埋め立ては1853年のペリー来航以降、東京湾に建設された海上砲台「台場」の技術が用いられ、築堤の石材には未完成の台場のものが流用されたり、高輪海岸の石垣等が転用されたりしたという。港区教育委員会は、日本の在来技術と西洋技術の折衷をみることのできる貴重な鉄道構造物であると評している。

未知の交通機関、鉄道は江戸っ子たちを大いに刺激した。幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師、歌川芳年は早くも開業前年に高輪築堤を描いた錦絵「高縄鉄道之図」を発表。また。歌川広重(三代)も1872年ごろに錦絵「東京品川海辺蒸気車鉄道之真景」を描いているが、出土した高輪築堤は広重が描いたままの姿をしており、その描写の正確性がうかがえる。

歌川広重(三代)による「東京品川海辺蒸気車鉄道之真景」(画像:港区立郷土歴史館所蔵)

鉄道は産業革命の申し子であり、近代化の象徴といわれる。1825年にイギリスで誕生した鉄道が、約半世紀を経て地球の裏側に伝わり、極東の島国の近代化に貢献した。しかもその記念すべき鉄道は、江戸以来の建設技術と結合し、世界でも珍しい海上鉄道として開業したのである。高輪築堤は、日本の鉄道誕生のみならず、日本の近代化そのものを体現した生き証人と言えよう。

出土直後から保存の要望相次ぐ

奇跡的とも言える高輪築堤の出土に対し、先手を打ったのは学術団体であった。2020年12月2日にJR東日本が高輪築堤の出土を公表すると、産業遺産学会は同24日、高輪築堤の「文化財的価値をご理解の上、遺構を発掘規模で保存し、鉄道の原点を飾る産業遺産を見学できるよう、公開」するよう要望書を提出。

また日本考古学協会が今年1月22日、「一部だけの保存や移築という措置では、この遺跡の意義を根本から損な」うとして高輪築堤の全面的な現地保存にむけて、開発計画の抜本的な見直しを求める要望書をJR東日本と国、東京都などに提出した。

続いて鉄道史学会、都市史学会、首都圏形成史研究会、地方史研究協議会、交通史学会も共同で2月22日、高輪築堤は「日本の近代化の幕開けと世界との接点を象徴する日本近代史にとってきわめて重要な文化遺産」であり、「東アジア初の鉄道遺構が奇跡的にほぼ完全な形で残っている点でも、世界文化遺産級の文化財であると確信」するとして、保存・公開を求めた。

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