ケインズ「一般理論」の「一般」に込められた真意 社会科学史上「最も影響力のある名著」の読み方
ケインズも古典派経済学の中心にいたのであるから、当初はそのようなメカニズムを前提として経済の事象を考えていただろう。
そのケインズが、ある時期から古典派が最も大切にしている“秩序観“に猛然と反論をするようになる。とくに大不況による失業の酷さを目の前にして舌鋒を鋭くしていくが、その中心的な主張は「需要重視」というところにある。
古典派の主張は「供給重視」であり、作ったものは自由市場を通じて最終的には必ず売れる、という前提に立っているが、その前提をケインズは疑い、最終的には「需要があるからモノが売れる」のであり「需要がなければモノ(供給されたもの)は売れない」とひっくり返してしまう。この考えがよく言われるところの「有効需要の原理」であった。
財政出動が「ケインズ政策」と呼ばれる理由
ケインズはこの「有効需要の原理」のほうが「セイの法則」よりも実際的であって、もしそうならば経済理論はこのような体系となる、ということを示すために書いたものこそが『一般理論』なのである。
まず、ケインズは「有効需要の原理」を基本に置き、そのうえで「有効需要(≒経済全体の実際の需要)が不足してしまう要因は何か」を論じる。画期的な成果はたくさんあるが、その中でも(1)実物経済と金融経済を分けて考えたこと、(2)実物経済の性質とその問題、(3)金融経済の性質とその問題に関しての考察は決定的に重要で、(2)に関しては「賃金の下方硬直性」を、(3)に関しては「流動性選好」を中心的に論じ、いかにセイの法則が現実的なものでないかを示す。
賃金が十分伸縮的に下がることができないために失業は生じ、また失業は自然には解消しえない(賃金の下方硬直性)。
流動性(≒現金のこと)を持っておきたいという人々の傾向(流動性選好)のためにマネーは市場に必要な量よりも少なくなりやすく、また不況や不安があると人々は流動性選好を強める。マネー不足は金利を高止まりさせるため、企業の活動にブレーキをかけてしまう。
この二つの大きな問題が有効需要を不足させ、失業が生じ、さらには経済を停滞させてしまうと論じたケインズは、その処方箋も用意していた。今の財政政策と金融政策の元になったもので、公共事業によって雇用の需要を作り、マネー量を増やすことによって金利の高止まりを解消すべき、と説いたのだ。
財政出動が「ケインズ政策」と呼ばれる理由、またケインズが先んじて金本位制に反対していたことも、これで理解できるのではないか。
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