地域主権改革の内実、国の責任の希薄化が社会保障を脅かす
住民意見の聴取義務や施設の防火基準まで廃止
あまり知られていないが、現在、衆議院で審議中の地域主権改革は、社会保障や教育など、国や地方自治体が担う公共サービスの仕組みを根本から変えることを狙ったものだ。
昨年10月7日、内閣府の地方分権改革推進委員会(丹羽宇一郎委員長=当時。同11月に活動を終了)は、「自治立法権の拡大による『地方政府』の実現へ」と題した第3次勧告を鳩山首相に提出。「国による自治体への義務付け・枠付けの見直しと自治体による条例制定権の拡大」、および「国と地方の協議の場の法制化」を主要課題に盛り込んだ。
従来、国はさまざまな法律や政省令などにより、地方自治体が実施する施策に関与してきた。それらのうち、自治体に一定の活動を義務付けることを「義務付け」、手続きや基準について枠をはめることを「枠付け」と呼ぶ。そして自治体の自治事務における義務付け、枠付けは地方分権の趣旨から望ましくないため、必要最低限を残して廃止すべきだと委員会は提言した。
12月15日に「地方分権改革推進計画」が閣議決定され、地方分権が「地域主権」と呼び名を変えて改革が始まった。地域主権の実現のうえで優先的に見直す対象として挙げられたのが、保育園や特別養護老人ホームなど福祉施設に対する国の関与だった。先の第3次勧告は、厚生労働省が定めた児童1人当たりの保育園の最低面積基準や、保育園や障害者施設、特別養護老人ホームに関する防火・防災基準は廃止が望ましいとした。自治体が独自の判断で基準を設けるべきだとしたわけだ。
そして義務付け、枠付けの廃止・縮減を目的として、児童福祉法や障害者自立支援法など41法律の一括改正を目的とした、「地域主権改革関連法案」(3法案)が参議院に提出されたのが、今年3月29日。しかし内容が障がい者制度改革推進会議に報告されることはなかった。
西村氏が問題の重大性を知ったのは、今年に入ってからだ。旧知の労働組合幹部から「大変なことが起きている」と耳打ちされたのがきっかけだった。そして地域主権改革の内容を知って驚愕した。