アカデミー賞映画「ミナリ」は絶賛に足るものか 在米韓国人の成功の裏にある悲劇
在米韓国人が韓国人移民の家族を描いた映画『ミナリ』が内外で話題だ。アカデミー賞の6部門でノミネートされ女優助演賞を受賞した。2020年、純韓国映画『パラサイト(寄生虫)』が作品賞、監督賞など4部門で受賞したのに続く”韓国映画界“の快挙として韓国では挙国的な喜びになっている。
実際はアメリカ製だが、出演者のほとんどは韓国人でセリフもほとんど韓国語ということで、韓国では韓国映画扱いだ。受賞したベテラン女優のユン・ヨジョン(73)はアメリカ生活の経験があり、息子は在米韓国人。韓国記者団との会見で、ノミネート段階からずっと大騒ぎされたため「こんな緊張し疲れたのは初めてだ。2002年の日韓共催W杯サッカーの韓国選手や冬季五輪フィギュアスケートのキム・ヨナ選手の気持ちがよくわかった」と述懐していた。
韓国人移民の歴史と登場人物にズレ
本人はベテランらしくいつものようにユーモアたっぷりでクールだが、韓国世論(マスコミ)のナショナリズム(愛国ムード)にはいささかまいったようだ。
映画そのものは1980年代の移民が、農業での成功を夢見る若夫婦の家族ストーリー。美しい自然と家族愛が織りなす静かな作品だ。異郷での農業への挑戦だから苦労と夫婦の葛藤はあるが、そこに伝統的な“韓国”そのもののような祖母(ユン・ヨジョン)が加わることでほのぼの感が出ている。人間の敵意と殺人劇をともなった見た後に不快感の残る『パラサイト』に比べると、この映画は安心できる(『パラサイト』については拙著『反日VS反韓』角川新書での評を参照)。
インディペンデント映画風の“いい映画”なので、ベネチアやベルリンなどヨーロッパの映画祭の受賞作という感じもする。したがって映画自体は高く評価するのだが、ただ一方で映画の主人公が「1980年代のアメリカで農業を始めた韓国人移民」という設定にはいささか首を傾げた。1970年代以降の筆者の韓国人体験からすると、この設定には無理があるように思う。
なぜならこの時代の韓国人移民は圧倒的に都市への移民であり、農業移民はきわめて例外的だからだ。映画における「アメリカの韓国人移民」イメージは、必ずしも現実とはかさならない。この映画を通じアメリカでの韓国人移民あるいは在米韓国人の人生や歴史をイメージすると、現実とはどこかズレる感じがするのだ。
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