「3850円寿司食べ放題」実施した社長が見た光明 TikTokを通じて広まり、魚介の仕入れ量は3倍に
「その仲卸会社の女性専務が同じ女性ということで共感、応援してくださり、経営が当社に移ってからも仕入れなどで協力してくれました。うちが新鮮な魚介を安く提供できてきたのもそのおかげ。それにもかかわらず、1回目の緊急事態宣言では何もできず、仲卸業者さんの苦労を見ていることしかできませんでした。ですので今回は何かをしなければ、と思っていました」(前原氏)
そこで2回目の緊急事態宣言では、営業の継続を即決。営業時間は20時までと制限されていたものの、「カニ、寿司食べ放題」があたり、約2カ月の実施で例年同月の3倍の仕入れ量に至った。カニの量で言えば、約10トンに上るという。
ただし支援企画として利益度外視の価格を設定したため、食材の原価率は70%に跳ね上ってしまった。
また薄利であることから、一部の社員は休業させる必要が生じたこともあり、スタッフの負担もさらに大きくなった。夜間営業から昼間営業にシフトするだけでも大変だが、食べ放題という初めての試みに、準備する時間もろくにない状態で挑戦。スタッフも前原氏もヘトヘトになり、慣れないことだらけで、最初は客にも迷惑をかけた。
生産者や仲卸業者のためだけではない
そこまでしたのは、生産者や仲卸業者のためだけではない。前原氏の脳裏にかつての「恐怖」が去来したからだ。
「1回目の緊急事態で休業を余儀なくされたとき、いちばん怖かったのは『会社がダメになる、チームがダメになる』ことでした。働く場があって、いっしょに汗をかくことでチームが育つ。とくに居酒屋はスタッフのチーム力がものを言う業種です。収益はもちろんですが、休業してスタッフやチームの質が低下することが大きな問題でした」(前原氏)
同社の目的は、居酒屋事業を通して客に喜んでもらうことだ。しかし同時に、従業員や経営者である前原氏自身が自己実現や見合った対価など、働く喜びを得られてこそ、店の質が向上し、客の満足感につながっていく、と考えている。また、自社だけではない。飲食を通じてつながる仲卸業者、生産者全体を含むパートナーすべてにとって同じことが言える。
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