「かぐや姫」のラストシーンに隠された深い意味 お茶目な筆者が竹取物語の最後に仕掛けた遊び

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こうして数知れずの作品に起用されてきた、超VIPな富士山は、現存している最古の物語にも堂々と登場している。最後に、ドーンと。いうまでもなく、それはかの有名な『竹取物語』である。

日本人は誰でも無性に富士山に惹かれるのと同じように、『竹取物語』にも不思議な引力を感じるようで、どんなに古典文学に疎い読者でも知らない人はいないといってもいい。富士山が取り上げられているから魅力的に思えるのか、それともその逆なのかは定かでないが、とにかくその関係は切っても切れないようなものである。

帝と文通を続けるかぐや姫にお迎えが

さて、かぐや姫はしつこくつきまとっていた5人の求婚者に無理な難題を課し、1人ひとりを破滅に追い込むが、それでもなお彼女の稀有な美貌と気高さが話題を呼び、その噂はなんと国のトップである帝の耳にまで届いてしまう。そして、手に入れられないものこそ欲しくなるという心理が働き、彼は断られても猛アプローチを続ける。

ところが、かぐや姫がどんな立派な求婚者であろうと頑なに結婚を拒否し続けるのは、気まぐれでわがままな性格のせいだけではない。ある罪を償うために地球に落とされた彼女は、月の都の出身であり、人間との恋を禁じられていたのだ。

とはいえ、相手が帝ともなると、ほかの男たちと同じようなぞんざいな扱いはさすがにできないので、文通を通じて関係を保ち、少しずつ2人の距離が近くなっていく。しかし、残念ながらロマンスは成就しない。やがて天人の迎えがきて、かぐや姫を好いている人々がどんなに抵抗しようとも、彼女の地球での滞在にあっけなく終止符が打たれるのだ。

いまはとて天の羽衣着る折ぞ君をあはれと思ひ出でける
とて、壺の薬添へて、頭中将を呼び寄せて奉らす。中将に、天人取りて伝ふ。中将取りつれば、ふと天の羽衣うち着せ奉りつれば、翁をいとほし、かなしとおぼしつることも失せぬ。この衣着つる人は、物思ひなくなりにければ、車に乗りて百人ばかり天人具して昇りぬ。
【イザ流圧倒的訳】
「今は、これまでと思って、天の羽衣を着るのですが、改めて貴方の気持ちを思い知ったわ」
という歌で手紙を締めくくり、それを薬の入った壺に添えて、頭中将に頼んで帝に渡してもらう。頭中将には天人が取り次いで渡す。それが終わると、天人はかぐや姫にすぐ羽衣を着せて、その瞬間に爺さんを愛おしく思う気持ちがきれいさっぱりなくなる。この羽衣を着たかぐや姫はすべてを忘れて、車に乗って、100人ほどの天人を引き連れて、空に昇っていくのだ。
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