ドキュメンタリー『タイガー・ウッズ』を‟公式”が認めないのは本人不在であることに集約されますが、高校時代にウッズと付き合っていたというディナ・パーと、2009年にウッズと不倫関係にあったレイチェル・ウチテルの告白が見せ場になったことも大きかったでしょう。パーが持ち込んだホームビデオに映る、笑って踊る10代のウッズの映像も公開されました。ウチテルからはウッズが彼女と一緒にいることを「充電」と表現していたことについて語っています。
彼女たちの登場によって、ウッズの父親との確執問題とスキャンダルを起こした影の部分を掘り下げることに作品としては成功しています。これを肯定するか否かで議論に発展し、賑わしてもいるのです。
裸足で留置所を歩く姿を映し出したのは悪意?
では、『タイガー・ウッズ』はウッズに悪意が向けられたドキュメンタリーなのでしょうか。
冒頭からウッズが2017年に飲酒運転の疑いで逮捕された直後、アメリカ・フロリダ州の留置所で、写真を撮影する部屋に向かって裸足で歩く姿を映し出しています。目はうつろ、伸びっぱなしの髭で変わり果てたウッズの写真は後に全世界に公開されているので何が起こっているのかわかる人にはわかるというもの。そんな映像からスタートしたのはインパクト欲しさでしょうが、それはあくまでもきっかけ。最後まで見れば「それは違う」と断言できます。
そう言い切れるのは、ウッズの栄光も挫折も、その両面にメディアや世間が作り上げた責任があることに踏み込んでいるからです。紛れもない栄光の事実は歴代1位タイのアメリカツアー通算82勝を成し遂げていることです。作られていない挫折としての事実は不倫報道後に本人の口から告白されたセックス依存症や、先のとおり飲酒運転の疑いで逮捕されたこと(本人の声明では「処方された薬剤への予期せぬ反応」と説明)があります。
一方で、メディアや世間が作り上げた光と影があったことを巧みに気づかせます。それもこれまで公開されてきた7000時間に及ぶタイガーの記録映像から。父親が2歳のウッズをテレビに出演させたときや、高校生の頃、1997年のメジャー優勝を飾った伝説のタイミングなど、その時々に作品が求める瞬間を切り取っています。
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