そして、インタビューに協力した証言者たちの言葉で畳み掛けていきます。ウッズの友人と名乗る何人かの証言は誇張しているようにもみえますが、少なくともウッズを取材してきた一部のジャーナリストたちの証言は真実を捉えているように感じました。
「言葉の裏にうっすらと人種差別を感じた」
なかでも、印象的だった証言がありました。人種差別がこの作品のテーマのひとつであることがわかる発言でもありました。それは不倫報道が過熱し、2010年のマスターズトーナメント大会前にオーガスタ・ナショナル会長ビリー・ペインの発言に対して、LAタイムズ紙ライター、トーマス・ボンクが語った言葉でした。
ペイン会長は記者会見で「彼(ウッズ)は私たち全員だけでなく子どもや孫たちまで失望させた。私たちのヒーローは子どものお手本には程遠い人物だった。今後は変わるための努力でも評価されるだろう」と発言し、その場にいたライターのボンクはこう感じたそうです。
「あの会見で忘れられないのは言葉の裏にうっすらと人種差別を感じたことだ。大会は懲罰の場ではない。相手が黒人ならば特にだ。あれがフレッド・カプルスなら? ニック・ファルドだったら? あれでは公開むち打ち刑だ」
光と影を持つのはウッズだけではないと言わんばかりに、メディアやゴルフ界、世間にある影を捉えた映像と証言はまだまだ続きます。時にゴシップに夢中になる我が身を振り返って、分が悪くもなりますが、正義を振りかざすわけでもなく、見る側に考える余地を与えるような作り方です。
スポーツ・ドキュメンタリーは今、豊作のときでもあります。バスケットボールの神様、マイケル・ジョーダンも出演するNetflixオリジナルの『マイケル・ジョーダン:ラストダンス』もそのひとつ。Disney+からサッカー界の貴公子、デビッド・ベッカムが全面協力する新作『Save Our Squad』の配信が控えていることも発表されたところです。話題作として見始めると、『タイガー・ウッズ』はその重たさに面食らうかもしれませんが、ラストにはすべて清算されたかのような映像が待っています。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら