シエラ/クロスビー/イグニス 明暗わかれた訳 ユーザーの琴線に「触れる・触れない」の境目

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それにクロスビーは背が高く室内が広いため、出かけるときの荷物もたくさん積める。どこかに遊びに行こうというのであればクロスビーがおすすめとなる。一方、イグニスは、シンプルで真面目な雰囲気さえある。同じようでいて、意外にイメージが違うのだ。

販売の明暗をわけた理由は、クルマから発せられるこうした印象にあったと考えられる。基本的にクロスオーバーを含めSUVは、実用車というよりも遊びに使うクルマだ。そうした雰囲気の違いをユーザーが敏感に感じたのだろう。

そういう意味でエスクードとSX4 S-CROSSは、さらに遊び心に欠ける。

2020年で国内販売を終了した「SX4 S-CROSS」(写真:スズキ)

どちらもハンガリーのマジャール工場で生産されて日本に輸入されているモデルで、日本だけでなく世界各地でリアルなSUVとして販売されるグローバルモデルだ。

言い換えれば、遊び心うんぬんではなく、しっかりと走り、悪路もこなし、そして高い実用性を持つSUVとして開発されたモデルなのである。

走らせてみれば、コンパクトSUVとして高い実力を備えていることがわかるのだが、こうした外連味のないキャラクターでは、日本の購買層の琴線に触れなかったのだろう。残念なことだ。

事実上、スズキの最上級車種となる「エスクード」(写真:スズキ)

グローバルモデルの難しさ

個人的に思うのは、こうした“残念なクルマ”がスズキには多いことである。たとえば、最近まで販売されていたコンパクトカーの「バレーノ」も日本での販売はうまくいかなかった。内容を考えれば、コスパがよく、走りもヨーロッパ風でしっかりとしていた。しかし、売れない。

10年ほど前には「スプラッシュ」というキビキビ走るコンパクトカーもあった。ヨーロッパ車ファンからは走りの高さが評価されたものの、販売は成功しなかった。商品として悪くはないのだが、日本のユーザーをターゲットにしていない分、日本人のニーズとズレてしまっていたのだろう。

スズキのSUVモデルの販売に差があるのは、日本市場のユーザーのニーズにしっかりと“対応できているか否か”と言える。なんとも自動車ビジネスの難しさを感じさせる現象だ。

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鈴木 ケンイチ モータージャーナリスト 

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すずき けんいち / Kenichi Suzuki

1966年生まれ。茨城県出身。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。レース経験あり。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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