マネジャーがリーダーシップの邪魔をする理由 ビジョンなき大人が子どもの無力感を作り出す

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ビジョンとして語られる未来像は、現状の延長としての事業計画だったり、義務と責任を伴う必達目標でもない。決して数字や計画ではないし、また、「べき論」で語られる理念や道理でもない。計画や目標はマネジャーの守備範囲だ。

リーダーは、前例やこれまでの経緯ではなく、何よりも未来に目を向ける。未来は過去の延長にない。過去から推論して理性的に考えても、未来はわからない。過去の成功にとらわれたり、データという過去の積上げから論理的に考察しても、できない言い訳ばかりになってしまう。

ルールもいらない。理想の姿を実現するのに、過去に作られたルールは自分を縛ってしまうからだ。

人を引きつけるビジョンを描き、それを人々のこころに届けて、ワクワクさせていくことが、リーダーの使命である。マネジャーのように、命令してもダメ。こころが躍るような未来を描いてみせ、みんなの努力が自然に集まるようでなければならない。

指示命令ではなく、ビジョンを通して周りを巻き込み、その実現に向けてメンバーの努力を結集する。それがリーダーの姿である。

将来の夢は会社員?

第一生命が、小中高生の「将来なりたい職業」2020年度のランキングを発表した(「第32回『大人になったらなりたいもの』調査結果を発表」第一生命保険ニュースリリース 2021年3月17日)。その結果は、男子の小中高生と女子の中高生のいずれも、なりたい職業のトップが「会社員」である。

それって、どういうこと? 仕事があって食っていけることを望む途上国のことかと、勘違いした人もいるかもしれない。青少年がこんな将来しか描けない国も珍しい。

「在宅勤務が広がり、自宅で仕事をする親の姿を身近に感じた子どもが多かった」と、同社は分析しているが、夢を持たないで生きている大人が、周りに多すぎる。大人が夢に向かってはつらつとした姿を見せられないから、無力感が伝播する。

そんな現状にNOを言うには、一人ひとりの大人自身が、ビジョンを描いている姿を見せなければならない。

「ガンダムファクトリーヨコハマ」では、実物大の動くガンダムをつくるというプロジェクトが実現した。缶コーヒー「ジョージア」のCMにもなった実話である。山田孝之が演じるプロジェクトリーダーは言う。

「動いたのはガンダムじゃありません。動いたのは、みんなのこころです」

ビジョンが人を動かし、未来を創る。これからの経済を回していくのはお金ではない。人間の心理なのである。

高橋 潔 立命館大学総合心理学部教授

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たかはし きよし / Takahashi Kiyoshi

1960年大阪府生まれ。84年慶應義塾大学文学部卒業、96年ミネソタ大学経営大学院博士課程修了(Ph.D.)。南山大学経営学部および総合政策学部助教授、神戸大学大学院経営学研究科教授を経て、2017年より立命館大学総合心理学部教授。神戸大学名誉教授。専攻は組織行動論と産業心理学。人事評価やコンピテンシー診断など、企業と人のマネジメントについて心理学的視点からアプローチしている。経営行動科学学会会長、日本労務学会常任理事、人材育成学会常任理事、産業・組織心理学会理事などを歴任。著書に『人事評価の総合科学』『経営とワークライフに生かそう! 産業・組織心理学』『組織行動の考え方』などがある。

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