アメリカが台湾の最大野党に報復した理由 「中国」の看板を外さない国民党に覚悟を迫る
さらに、クリステンセン代表が2020年12月31日に1年を振り返る動画をSNSに投稿したが、直轄6都市(台北、新北、台中、高雄、桃園、台南)の市長との写真の中で唯一、盧市長との写真をはぶいた。これにより、クリステンセン代表の怒りはいよいよ本物だと知られるようになった。
歴史に「もしも」はないと言うが、仮に盧市長の発言の後に江主席ら国民党がAITへ何かしらのフォローがあったなら、アメリカ側の怒りもここまで大きくならなかったかもしれない。しかし、クリステンセン代表の任期が2021年夏だったこともあり、「新任の代表との間で新たな関係を築けばいい、まずは国内を優先」とする計算が江主席ら党内にあったと考えられる。そんな国民党に対するクリステンセン代表やアメリカの攻勢が、今回の懇談会で最大限、展開されてしまった。
今回の訪台団との懇談会で、台湾側から出席した議員は、民進党の羅致政、王定宇の両議員、台湾民衆党の高虹安議員、無所属の林昶佐議員、国民党の陳以信、蒋万安の両議員。将来の台湾政治で中心を担うと考えられている中堅・若手の政治家だ。AITはさらに、国民党の林為洲議員も招待したが、豚肉輸入反対運動の世話人であることから出席を婉曲に断ったという。林議員は国内的には義理を通した形だが、アメリカからすれば「アメリカは広い心で反対派も招待した」という事実を作ったことになった。
対中政策での覚悟を国民党に迫る
また、出席した陳議員はメディアに「個人の立場で出席した」と明らかにした。しかし陳議員は比例選出の議員であり、「国民党への報告もなく出席したのは規律問題に当たるのではないか」との批判が一部で上がった。さらに、蒋議員は懇談会で国民党が非難を続ける豚輸入については、一切触れなかったことが明らかになっている。そして、極め付きが外交族の重鎮である江主席に招待状すら届いていなかったことだ。まさに、アメリカが台中の仇を台北で討ったような話である。
52年ぶりに日米の共同声明に「台湾」が明記された今、アメリカは中国の看板を頑として外そうとしない台湾の国民党に向けて、かつてアーミテージ元国務副長官が日本に言ったかもしれないとされる「ショー・ザ・フラッグ」(Show the FLAG、日の丸を見せろ)と同様なメッセージを発信しているのかもしれない。
これは同時多発テロ後の2001年9月、ブッシュ政権で国務副長官だったアーミテージ氏が日本政府に自衛隊派遣を求めたときの発言だ。この発言の後に日本は、「テロ対策特別措置法」を成立させ、アメリカ軍が展開している地域への物資の補給や輸送、非戦闘地域での医療活動といった後方支援を自衛隊が行えるようにした。アメリカは対中政策で融和路線を取ろうとする国民党にも、覚悟を迫ったと言えるのではないだろうか。
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