新型コロナへの過剰反応をいつまで続けるのか 感染者や死者が少ない日本で弊害のほうが拡大

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死因別には、新型コロナウイルスによる死者数は3459人の増加となり、自殺も912人増と11年ぶりの増加となったが、肺炎は1万5645人の減少、心疾患は3808人減少、インフルエンザは2371人減少した。対人接触機会の削減、手洗い、うがい、マスクの着用といった感染防止策によって新型コロナウイルス以外の感染症等が抑制されたと考えられる。また、従来であれば肺炎などにカウントされていた死者が新型コロナウイルスによる死者としてカウントされている可能性も考えられる。

日本の対策は失敗ではなくむしろ過剰だった

総死亡者数が減少したこと自体は喜ばしいことだが、そのために犠牲にしていることは少なくない。日本はもともと新型コロナウイルスの感染者数、死者数が国際的に少ないにもかかわらず、一定の経済活動の制限を行ってきた。この結果、2020年の実質GDP(国内総生産)成長率はマイナス4.8%となり、感染者数や死者数が圧倒的に多いアメリカのマイナス3.5%を下回った。

その要因として経済対策の規模の違い(アメリカ>日本)や潜在成長率の違い(アメリカ>日本)もあるが、感染者数や死者数対比で見て、自発的な行動変容も含めた行動制限が過剰だった可能性もある。また、直接的な経済損失に加え、自殺者の増加、婚姻件数の激減など、対人接触を避けることによって生じるさまざまな弊害が表面化しつつある。

日本ではインフルエンザで毎年約1000万人が感染し、約3000人が亡くなっていた。それでも学級閉鎖や一時休校などを除いて特別な社会・経済活動の制限が行われなかったのは、一定程度の感染や死が社会的に許容されていたためと考えられる。感染者数をゼロにすることは基本的に不可能であり、ワクチン接種の進展が対面型サービスの救世主になるとは限らない。

新型コロナウイルスについて、日々の増減に一喜一憂するだけでなく、社会的にどこまで許容されるかを議論すべき時期が来ているように思われる。

斎藤 太郎 ニッセイ基礎研究所 経済調査部長

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さいとう たろう / Taro Saito

1992年京都大学教育学部卒、日本生命保険相互会社入社、96年からニッセイ基礎研究所、2019年より現職、専門は日本経済予測。日本経済研究センターが実施している「ESPフォーキャスト調査」では2020年を含め過去8回、予測的中率の高い優秀フォーキャスターに選ばれている。また、特に労働市場の分析には力を入れており、定評がある。

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