漁民を「国益守る人間の盾」にする中国の危うさ 日本人が誤解している「海上民兵」の正体

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PLA海軍は海上民兵やその主要構成員である中国の漁民について次のとおり評している。

「兵と民との2つの身分を併せ持つ存在であり、海上における突発的な事案の対処に欠かせない」

「民衆として海洋権益を体現し、民兵として軍事的プレゼンスを強化しながら強度や烈度を下げつつ、いったん有事になれば真っ先に使用する」

漁民や海上民兵は、PLA海軍やPAP海警の前面で彼らの槍先や矢面となって活動する駒、と中国では考えられているのだろう。周辺国と相容れない主張が交錯する海域で、槍先となって活動する中国漁民は、当然のことであるが、相手国のコーストガードや海軍などの法執行に直面する。

また、当局の指示がない場合も、当局に対する忖度や、一方的な義憤、あるいは蛮勇によって周辺国との関係をこじらせることもある。相手国の法執行活動に激しく抵抗する中国漁民の中には死傷者が出ることもあるが、中国では彼らを愛国に殉じた戦士として称賛し、後に続けとばかりに官製メディアが扇動すらしている。

過去にも発生していた漁船がらみの事件

2009年、南シナ海で活動中のアメリカ海軍調査船インペカブルに対して中国漁船が悪質で危険極まりない航行妨害をした事件が発生した。幸いにもアメリカ海軍が抑制的に対応したことで大事には至らなかったが、場合によっては敵対行動と判断され、彼ら漁民が米中武力衝突の最初の犠牲者になっていたとしても不思議ではなかった。後日、アメリカの研究者たちの分析によって、彼らが民兵として活動していたことが明らかにされた。

2010年には、尖閣諸島付近の日本の領海から退去を命じられた中国漁船が海上保安庁巡視船に体当たりして船長が逮捕される事件が起きた。この船長も帰国後、時の人として英雄視された。ただしその後は日中関係の好転に伴ってその船長はすっかり忘れ去られ、今では寂しい人生を送っていると報じた記事もある。

海上保安庁をはじめとする周辺国のコーストガードや海軍に対峙した漁船やそれに乗り組む漁民も、「中華人民共和国の民兵」であることを国際社会に対してあらかじめ中国当局が明らかにしていれば、彼ら漁船や漁民は中国の正規の軍事力として、相手国の取り扱い方も変わっていただろう。

次ページ要件さえ満たせば、外見上は漁船でも軍艦
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