「値段のない料理店」の店員がやたら前向きな訳 飲食店の未来は「サステナブル」が武器になる

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4カ月の怒涛の研修が終わり、2020年9月から運営を再開した。このタイミングでKITCHEN MANEはレストランのコンセプトを「食のサステナビリティの問題を発信する」にリニューアルした。

「Keep SMILING at all times(いつでも笑顔を絶やさない)」「Praise the challenge(挑戦を称えよ)」といった48項目の企業理念「コアバリュー」を体感的に身につけ、サステナビリティの意識をインストールしたスタッフの研修成果は、さっそく行動に表れる。

「これはグアテマラで栽培されたフェアトレードのコーヒーです」「有機栽培の野菜を使うことで、化学肥料を水に流すことなく、海洋資源の保全につながるんですよ」と、スタッフ一人ひとりが熱を込めて、「サステナビリティ」に衣替えしたメニューをお客さんにアピールするようになったのだ。

「あるお客様からは『スタッフの対応が以前と全然違いますね。経営する会社が変わったんですか?』とまで聞かれました(笑)」と、現場を見続けている表氏はその変貌に驚く。

今2021年1月、1都3県を対象に2度目の緊急事態宣言が発出されたのを受け、KITCHEN MANEはディナー営業の休止を決断。代わりに、初めてのランチ営業に踏み切った。さて、ランチの値段をどう設定するか。表氏と“徹底的に経営者目線を学んだ”現場スタッフが結論を出すのに時間はさほどかからなかった。

レストランのコンセプトが書かれた紙(編集部撮影)

「『食のサステナビリティの問題を発信する』というコンセプトに照らすと、値段が1000円だろうが1500円だろうがあまり意味はないよね、という結論に自然と落ち着きました」(表氏)

こうして「値札のないランチ」が誕生した。

「値札のないランチ」が引き出したスタッフの能力

この「値札のないランチ」、実際にお客さんはどれだけのお金を払っていくのだろうか。「さすがにそれは企業秘密ですが……」と前置きしたうえで、「おかげさまで、平均額は当初の見込みを上回っています。中には1万円札を置いていくお客様もいらっしゃいます」と表氏は語る。

それだけでなく、この試みは思わぬ効果を生んだ。スタッフがよりいっそう、お客様とのコミュニケーションを積極的に行うようになったのだ。

ディナーの価格は食事後、客自身が記入(編集部撮影)

「値段が付いていないということは、食事そのものだけでなく、店内の雰囲気やロケーション、そしてスタッフの接客も含めたトータルでのランチ体験の価値が試されることでもあります。接客次第で『付加価値』を高められることに、スタッフ自身が気づいたようです」(表氏)。

この成果を受けて、今年3月からはディナーメニューも価格表示をやめた。

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