台風で橋崩落、上田電鉄「復活」まで532日の軌跡 濁流にのまれた「赤い鉄橋」を再び電車が渡った
全長224mの千曲川橋梁のうち、崩落し大きな被害を受けたのは最も左岸(上田駅と反対側)寄りの「G5桁」と呼ばれる橋桁とその橋台・橋脚だ。橋桁の復旧に当たっては、崩落した部分を造り変えたほかは従来の部材を8割弱活用した。「工期や費用を総合的に考えたため」(上田電鉄・矢沢運輸課長)だが、元通りの姿を取り戻すことができた。
復旧に向けた動きが進むと同時に、市民や全国のファンらによる支援の輪も広がった。上田電鉄への寄付金は2019年10月16日~12月27日分で1690万5000円が集まったほか、2020年1月には復旧を求める団体やプロジェクトが約5万4000人分の署名を市などに提出。市への寄付金も8000万円近くに達した。「ここまで『赤い鉄橋』に思いを寄せていただいているということを改めて教えていただいた」と矢沢課長はいう。
修復した橋桁の架設は今年1月24日に完了。2月14日にはレールが接続され、全線再開前日の3月27日に試運転が行われた。被災前最後の電車で鉄橋を渡った矢沢課長は、復旧後初めて鉄橋を渡る試運転電車にも添乗したといい、「やっぱり、1年5カ月長かったなと実感した」と語る。
今後も鉄道を守り続けるためには
ついに全線復旧を果たした上田電鉄別所線。ただ、同鉄道の経営はもともと厳しい。近年は2015年に行われた善光寺(長野市)の御開帳や、翌2016年に放映された当地ゆかりの武将、真田幸村が主人公のNHK大河ドラマ「真田丸」の効果などで旅客数は年間129万人程度を維持していたものの、被災した2019年度は約111万人まで減少。コロナ禍の影響もあり、先行きは楽観視できない。
以前から市は上田電鉄に年間約9000万円を補助しており、さらに2020年度からは「災害支援措置補助金」も加わる。同年度と2021年度は3000万円を計上しており、今後8年で最大2億4000万円を見込む。全線再開日に開いた事業報告会で上田市議会の土屋勝浩議長は「市民の税金をつぎ込む以上、市議会にも大きな責任がある」と述べ、「失った乗客をどう取り戻すか、どう経営改善を図るか。災害から復旧してV字回復を遂げた奇跡の鉄道と全国から称されるようになっていただきたい」と話した。
上田電鉄の山本修社長は全線再開のセレモニーで、「これからがスタート。復旧事業費を使って残してよかったと思ってもらえる別所線であるように努力してまいりたい」と意気込みを示した。今年6月で開業100周年を迎える別所線。よみがえった赤い鉄橋、そして鉄道を守り続けられるかどうかは、今後の取り組みにかかっている。
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