中国がコロナ後の世界経済を牽引できない理由 「アフター・コロナ」の本当のリスクとは何か

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ここで、経常収支あるいは貿易収支が「赤字」であるのは、当該国の経済状況が悪いかのようにメディアなどでよく報じられるのは周知の通りだ。だが、経常収支は国内の貯蓄と投資のバランスを示しているにすぎない。経常赤字が拡大したアメリカでは、2020年に政府の財政政策発動で財政赤字が大きく拡大したことなどで、国内において「貯蓄<投資」となった。つまり、アメリカでは、消費や投資が復調した結果、経常収支の赤字が増えた。

不況下においては、政府部門が投資を増やして国内の貯蓄投資バランスを調整することで、経済全体の所得を支えるのは、経済学の教科書に書いてある政策対応である。新型コロナ危機後に政策対応が十分実現できた主要国はほぼアメリカのみで、その結果、同国では経常収支の赤字が増えたのである。

一方で、中国では2020年に経常収支の黒字が増えた。中国国内では、投資や消費が十分増えず、貯蓄超過の様相が強まったのである。このことは、日本も同様で、日中では政府による財政政策がアメリカほど大規模に行われなかった結果、民間の貯蓄超過が増えて、経済全体の所得水準を十分高められなかった可能性を示している。

各国の貯蓄投資バランスの動きをみても、新型コロナ後の経済復調、世界の需要拡大の源泉がアメリカの経済成長だったことは明確である。これは、新型コロナにうまく対応できたとされる中国経済の先行きは、世界的な製造業の生産回復ペースに大きく依存することを意味するだろう。

中国経済に今後ブレーキがかかる理由とは

今後、新型コロナ収束に伴う経済の正常化が進めば、アメリカにおける経済回復の主体が、製造業からサービス業にシフトするとみられる。製造業の生産回復ピッチが鈍り、これまで好調だった中国経済にもブレーキがかかるだろう。アメリカからの「経済的な制裁」が続くなかで、中国当局が妥当な経済政策運営を行うことは難しいのではないか。

このため、中国がコロナ後の世界経済の牽引役になる可能性は低いだろう。2021年以降の世界経済や金融市場の先行きにとって、バイデン大統領が率いるアメリカにおいて、妥当な経済政策が続くか否かが、引き続き最も重要な要因だと筆者は考えている。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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