米中関係の悪化を防ぐシナリオ−−ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授
米国の世論調査によると、米国人の3分の1が「中国は近い将来世界の支配国になる」と考えているという。だが一方で、米国人の約半分は「中国の台頭は世界平和にとって脅威」とも感じている。中国人の多くも「中国がさらなる大国になることを米国人は受け入れないのでは」と危惧している。米国人も中国人も、こうした誇張された懸念を抱くことを互いに避けるべきである。
米中両国が良好な関係を維持することは、国際社会の安定のために重要である。では、米中関係を脅かす最大の懸念材料とは何か。それは「両国の対立は避けがたい」という考え方そのものにあると言っていいだろう。
歴史をひもとくと、新興勢力が近隣諸国や他の大国に”対立の懸念”を抱かせるとき、そこから実際の対立が生じる場合は少なくない。懸念こそが、ささいな出来事を壊滅的な連鎖反応にまで広げる要因となるのである。
いま米中関係を脅かす要因の一つに、台湾海峡をめぐる問題がある。中国はかつての国民党との内戦以来、台湾を「米軍の庇護下にある自国領土」と見てきた。中国は「台湾が独立を宣言すれば武力介入も辞さない」とまで明言している。だが、米国そのものは中国の主権問題にそれほど深く関与しようとはしていない。あくまで台湾の民主主義を損なわせないよう平和的解決を望んでいるだけだ。
米国が今、中国との関係悪化を避けるために描いているシナリオは二つある。「台湾を独立させない」ことと「中国に台湾への武力行使をさせない」ことの2点である。
台湾では現在、中国政府との妥協点を探ろうとする「汎藍連盟」(国民党陣営)と、あくまで台湾としての独立を目指す「汎[連盟」(民進党陣営)との間に埋めがたい溝が生じている。両連盟は3月22日の総統選で対決する。
世論調査によると、国民党の馬英九氏(前台北市長)が与党である民進党の謝長廷氏をリードしている。だが一部の専門家は、民進党の陳水扁総統が独立派の敗北を阻止しようと画策しているのではないかと疑っている。陳総統は「台湾は国連加盟をすべきか国民投票で決するべきだ」と主張しており、中国はこの動きに対し、独立に向かう挑発的行動だと危惧している。一方の陳総統もこうした中国の姿勢に反発している。
米国はこのように、中国から独立を図ろうとする台湾の一部の動きに懸念を抱いている。先日、ライス国務長官は記者会見で、「『台湾』の名称での国連加盟の是非を国民投票で問うことは挑発的行為である」と述べ、「国民投票は台湾海峡を挟む両国に必要のない緊張関係を生む。台湾には何の恩恵ももたらさない」と指摘した。