日経平均の「底値」を2万7000円程度にする理由 株価が短期的に下振れするリスクは残っている

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さらに、同国の連銀も大胆さを増している。基本的な金融政策については、引き続き粘り強く現在の緩和を継続する、と繰り返し述べている。株式市場が期待しているような、アメリカ経済の回復見通しが正しければ「そこまで強固に金融緩和を持続しなくても」と思うかもしれない。

しかし連銀の内部では、「『日本化』は何としても回避したい、日本のようにデフレ的な状況から抜け出せなくなることは絶対に避けたい」という意見が強いようだ。念には念を入れてデフレへの陥落を回避しよう、との意向だと見える。

こうして緩和持続を強く打ち出すいっぽうで、債券市場や金融システムの正常化に向けては、大胆に踏み出してもいる。ここでは簡単な説明にとどめるが、連銀はSLR(補完的レバレッジ比率)規制の時限的な緩和を、予定通り3月末までで打ち切ると公表した。

この緩和打ち切りで銀行が長期国債を売却するとの懸念があった。だが、連銀は「市場は市場の自由にさせて、任せるのが正常な姿だ。今はコロナ禍を脱却しつつあり、緊急事態ではなくなったのだから、銀行の債券保有も長期国債市場も自然体で大丈夫だ」という自信の表れとも解釈できる。

合わせて連銀は、コロナ禍において銀行経営を連銀が支えるなか、大手銀行が株主に増配や自己株買いを行うことは好ましくない(コロナ禍においては、自己資本の確保を最優先してもらいたい)としてある程度の制約を課していたが、こちらも6月末でそうした株主還元の制約を解除すると発表した。これも、金融業界が正常状態に復したとの自負を背景としているだろう。

一連の、連銀による正常化に向けての大胆な「お墨付き」は、アメリカの株式市場において、投資家心理を支えそうだ。もちろん、そうした大胆な策がつまずく可能性もある。だが連銀も「失敗したらやり直す」覚悟はできている。連銀は、過去の金融政策を振り返っても、失敗を認めてすぐに修正することには、前向きな組織だ。

アメリカ株の底堅さが日本株も支える?

このように、アメリカの政権や中央銀行が、足元でもりもりと大胆な策を想定外に打ち出してきていることが、アメリカの株価の調整を浅くし、それが日本株の調整幅もある程度は抑えると考え、底値予想値を修正したわけだ。

だが、そうした日米間の株価の関係性以外には、残念ながら日本株の好材料は見出しにくい。日本ではアメリカと方向性としては似ている点があり、たとえば日銀も長期金利の変動幅の拡大や、株式ETF(上場投資信託)の購入の弾力化など、証券市場の正常化に向けての策は打ち出している。

しかし連銀の動きに比べるとあまりにも小規模に見える。また、企業収益見通しについても、アナリスト予想の平均値で見るとアメリカでは急速な収益予想の上方修正が進んでいるいっぽうで、日本企業については上方修正はされているが、比較的小幅なものにとどまっている。

当面の短期株価反落の局面でも、中長期的な株価上昇基調においても、日本株のアメリカ株に比べての劣後は、根強く続きそうだ。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも同時掲載しています)

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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