日本人の「投資への高すぎる壁」壊す逆転の発想 必要性を訴えるより「行動経済学」を応用しよう

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たとえば、市町村が、出生時や成人式の「お祝い」に地方債を発行して渡す、地元の商店街などで使えるポイントを付与するなど、自治体の政策の受皿として活用できる。

あるいは、おじいちゃんから孫(証券口座を持ってない)にお年玉やお祝いで株を渡す。バレンタインデーにチョコの代わりに株をプレゼントなど、より日常的なシーンでの活用も想定できる。

さらに、「金融教育」のツールとしての活用も考えられる。生徒や受講者のBAに少額の株式や投資信託を配り、「証券保有するとはこういうこと」を教育コンテンツに盛り込めるようになるのではないか。

いずれも現在の制度やルールとは距離がある話だが、「受け取ってもつだけなら国民全員できる」という環境作りをすることで、ここでは考えつかないような新しいサービスや政策が誕生し、証券保有がもっと日常的なものになると思う。

政策に「行動経済学」的アプローチを

荒唐無稽な話に聞こえるかもしれないが、実は「環境を整備することで自然な形で個人の行動に働きかける」という考え方は、行動経済学という学問分野で「ナッジ」と呼ばれている。

2017年のノーベル経済学賞が行動経済学の専門家だったこともあり、聞いたことがある人も多いのではないだろうか。

「ナッジ(nudge)」とは、「肘でちょっとつつく」という意味である。近年、欧米ではこの「ナッジ」が様々な分野で現実の制度・政策に活かされており、金融分野では、英国のNESTと呼ばれる確定拠出年金制度が有名である。

英国では、独自の企業年金を持たない会社の従業員は自動的にNESTに加入する仕組みとなっており、老後の資産形成を促されているのだ。途中で止めたい人は後から脱退可能である。この制度の最大の特徴は、最初の段階で加入するかどうかの難しい判断を個人にさせない点である。

こういった取組の背後には、真正面から「こうしたほうがいいですよ!」と説得するのではなく、「そっと環境を用意する」ほうが、望ましい結果をもたらしやすいという信念がある。

まるで、イソップ寓話「北風と太陽」で、太陽が旅人に対してとった戦略を彷彿とさせる。

本稿で提案した「ベーシック・アカウント(BA)」も、まさにナッジの応用例と位置付けられなくもない。

もちろん、ここで書いたBA構想は、今はまだコンセプトに過ぎない。実際の制度設計を考える際は、実務的にクリアすべき論点がたくさんあるだろう。

それでも、長年に亘って掛け声倒れに終始してきた感のある「貯蓄から投資へ」を、これまでとは全く違う観点から推し進める切り札になるはずだ。

竹端 克利 野村総合研究所 金融イノベーション事業本部 上級研究員

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石川県金沢市生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、2005年野村総合研究所入社。コンサルティング事業本部を経て現職。

専門は、金融制度、金融政策に関する調査研究と経済分析。野村総合研究所のイノベーションマガジン「NRI Journal」や「金融ITフォーカス」 にも随時寄稿中。

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