電車・バス「ポイント制度」やめる各社の懐事情 JR東の「時差通勤でお得サービス」は話題だが…

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バス特の終了を発表している各社は一様に「ICカードが普及し当初の目的を達成したこと」を理由としており、取材に対し「コロナは関係ない」と強調するバス会社も。ある業界関係者は「鉄道はもともと乗車ポイントがない中でバスはサービスとして続けてきたが、割引として認識されているかどうか難しい部分もあり、一定の役割を終えたのでは」と語る。

終了の理由にコロナ禍の影響を明記した例もある。さいたま市によるコミュニティバスのバス特終了に関する資料には、路線バス事業者がバス特を終了する理由として、ICカードの普及とともに「新型コロナウイルス感染症の影響に伴い運賃収入が大幅に減少したため」と記されている。同市交通政策課によると、これは市内を運行するバス事業者から寄せられた声だという。各社で事情は異なるとみられるが、コロナ禍による影響もやはり無視できなさそうだ。

横浜市交通局によると、バス特の「負担相当額」は2019年度の実績で約9億3300万円という。バス事業は以前から全国的に厳しい状況が続いており、終了を決断する事業者が続くのもやむをえないといえるだろう。

「お得」終了が示す公共交通の厳しさ

乗車ポイントとは異なるが、交通系ICカードの「お得なサービス」が終了する例はほかにもある。静岡県浜松市を中心に鉄道・バスを運行する遠州鉄道は、同社のICカード「ナイスパス」の入金時にプレミアが付く「ナイスパスお得額付与サービス」を3月限りで終了する。終了の理由は「コロナ禍での利用者数激減」だ。

同サービスはICカードへの入金時、金額に応じて100~2700円のプレミアが付く仕組みで、2004年のナイスパス導入時に開始。最もプレミア額の大きいケースでは、1万円の入金で2700円が上乗せされる。

現在、同社の電車・バスの利用者数はコロナ禍前に比べて7割程度と厳しい状況が続いているといい、「できれば継続したいが、厳しい状況の中で苦渋の決断」(同社)。お得額付与サービスの終了によって約1億8000万円の経費削減を見込む。

終電繰り上げや減便、運賃値上げの動きなどと比べれば目立たない「ポイント終了」。だが、そこにはコロナ禍に限らず、現在の公共交通を取り巻く環境の厳しさが表れているといえそうだ。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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