2025年「自動運転レベル4」に立ちはだかる壁 自動運転普及のカギは「社会受容性」にある

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そこでは「技術基準と標準」「道路交通ルール」への対応という大きく2つの方向で、国内外の関係各部門と連携して基準化と標準化を進めていることを紹介するとともに、自動運転部会傘下のユースケース、ヒューマンファクター、AD安全性評価など6つの分科会の活用内容も示した。

さらに質疑応答では、社会受容性について大きく3つのポイントがあると指摘した。

(1)適切な安全性を社会が需要できるかどうか
(2)メーカーやメディアが自動運転に対してミスリードしないような仕組みをつくること
(2)自動運転がメーカーによるプロダクトアウトの商品であること

横山氏は、「自動運転は、メーカーが交通事故の減少などを目指したプロダクトアウト(の商品)である。消費に対する魅力がどういった反響が(社会から)あるのか。(販売)コストを含めて、ステップバイステップで進めていくべき」との考えを示す。

この「プロダクトアウト」という視点こそ、自動運転における社会受容性の議論で重要な点だと筆者は思う。ユーザーや販売店から「できるだけ早く(レベル3以上の本格的な)自動運転のクルマが欲しい」といった、マーケットイン型の要望が強くあるわけではないからだ。

自動運転への需要は本当にあるのか?

自動運転は、あくまでも自動車メーカーやIT企業が「交通事故ゼロを目指す」という社会的な責任を踏まえたうえでの新規事業として開発しているにすぎない。そのため、実現には法整備や安全性の確保など、これまでの自動車開発と比べるとさまざまな点で実用化へのハードルが高く、どうしても研究開発や法務対策が優先される。

そして、そうした対応にある程度のめどがついた状態で“実証試験”として世に出し、社会からどう見られるかを“後付け”で考えている。これを「社会受容性」と呼んでいるというのが実情だ。

羽田空港周辺で2020年秋に行われた自動運転バスの実証試験の様子(筆者撮影)

そのため、社会からの本質的な需要と、自動車メーカーや研究機関が想定している需要に差異が生じる場合もある。さらにいえば、実質的に社会から自動運転に対する具体的な要求があまりない状態で、需要の創出を仮想しながら社会受容性を議論しているようにも思える。

これは、国や自動車メーカーが自動運転を議論する際に用いる、オーナーカー(乗用車)とサービスカー(公共交通機関に近い存在)のどちらにもいえることだ。今、“オーナーカーのレベル3”がホンダによって世に出たことで、ユーザー、販売店、そして社会全体から自動運転全般に対して、厳しい評価の目が向けられることになる。

桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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