「静岡リニア」川勝知事、ダム取水になぜ沈黙? 中部電力川口発電所、国の許可得ず稼働続ける

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もうひとつ忘れてならないのは、2005年田代発電所(東京電力)の水利権更新で、田代ダムから毎秒1.49立方m~0.43立方m(季節変動)の水が大井川に戻されていることだ。

久野会長は「田代ダムから大井川に戻された水は、各ダムの放流水に上乗せされるはずだった。塩郷えん堤でも、現在の毎秒3立法mから5立法mに、田代ダムの放流水分が上乗せされると期待した。だから、田代ダムに対する『水返せ』は旧川根3町(現在の川根本町と島田市の一部)住民の願いだった。それなのに、いまも実行されていない。知事は承知しているはずだが、この問題にまったく手をつける様子がない」と怒りの声を上げる。

第8回有識者会議で委員の沖大幹・東京大学教授は「(JR東海の)トンネル掘削による県外流出量は最大0.05億立方mから0.03億立方mであり、非常に微々たる値だ。これ(トンネル工事による県外流出)を問題視するのであれば、静岡県は年に何億立方mも変動する水量をいかに抑えて、住民が安定して水を使えるように努力しているのか」など疑問を投げ掛けた。

【2021年3月21日18時30分 追記】記事初出時、沖教授の発言のうち、県外流出量に関する記述に誤りがありましたので、上記のように修正しました。

下流域にはリニア工事の影響はほとんどない

そもそも、中流域の住民たちは、下流域の利水者にリニア工事による影響はほとんどない、と考えている。

中部電力の川口発電所(筆者撮影)

JR東海の水循環図では、大井川広域水道、大井川農業用水、東遠工業用水など下流域の利水団体が年9億立方mの水利権を有するが、実績ベースで利水者の使用量は年約7億立方mでしかない。毎年、川口発電所からは12億立方mが各利水者に送水され、残りは大井川に放流されている。つまり、利水者は安定した水を使い、リニア工事による県外流出が最大0.05億立方mあったとしても、まったく支障はないはずだ。

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久野会長は「もし、本当にリニア工事の影響があるならば、中流域の表流水かもしれない」と指摘する。県は地下水への影響を懸念しているが、上流域の地下水の多くは地表に湧出し表流水と混合して河川を流れるから、中流域の表流水が少なくなる可能性のほうが大きい。いずれにしても、県は下流域よりも中流域の影響を考えたほうがよさそうだ。

1980年代の「水返せ」運動では、下流域の市町は中流域を支援しなかった。現在でも中流域の水問題について、下流域の首長たちの関心は薄い。

2月21日の国交省と流域10市町の意見交換会で、国は「リニア着工は地元住民の理解が前提」などと説明した。ただ、中流域(川根本町、島田市の一部)の意見を聞くだけでも、「地元住民の理解」の意味合いはまったく違ってくる。

小林 一哉 ジャーナリスト

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こばやし・かずや / Kazuya Kobayashi

1954年静岡県生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。2008年退社し独立。著書に『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)等。

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