貧富の格差が株式バブルをもたらすメカニズム BNPパリバ・エコノミスト河野龍太郎氏に聞く

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大恐慌期の1930年代になって、戦争に至り、総力戦の戦費調達のために、所得税や法人税が導入され、累進課税が導入された。また、全体主義や共産主義の脅威が高まったため、ルーズベルト大統領の下で、社会包摂的な経済政策が導入されて、所得再分配もドラスティックに進んだ。第2次大戦で資本が破壊され、戦後の高度経済成長期には、戦時中に総力戦を遂行するために行われた富裕層への課税強化や法人税率の引き上げが維持されたので、ようやく格差が是正されてきた。

だが、1980年代以降は所得税の最高税率の引き下げや法人税率の大幅な引き下げ、いわゆる底辺への競争が行われたため、再び経済格差の拡大が進んだ。1990年代後半以降は、ITデジタル革命や第2次グローバリゼーションがさらに格差の拡大を助長した。

グローバリゼーションやイノベーションによって、経済格差が拡大し、一部の人々に所得が集中すると、経済成長もしなくなるし、政治的にも不安定になる。古代アテネでも格差が拡大すると内政が不安定化し、債務奴隷が増えて国防力が維持できなくなるので、債務の帳消しや債務奴隷の解放、身体を抵当とした債務の禁止や貴族の土地の再分配などが行われたという。

次の金融危機で社会変革が起きるのか

――アメリカでも所得再分配の必要性が叫ばれていますが、なかなか既得権益には手が付けられず、大規模な戦争というわけにもいきません。

現在は、新興国のホワイトカラーやAI ロボティクスに労働力が置き替えられるため、実質賃金の急増をもたらしたルイスの転換点のようなことも期待できない。むしろ格差はますます拡大する。社会の分断が広がり、1930年代に徐々に近づいているが、実際に社会変革に至るまでは距離があるようにも見える。

イエレン財務長官の巨額財政出動は急進的な政治勢力が伸びて体制転換による富のリシャッフルが行われるような事態を回避するために、意図されたはずだ。だが、大規模財政はバブルをもたらし、それが崩壊して次の大きな経済危機が訪れるのではないか。そうすると、それが1930年代のような社会変革につながるのかもしれない。それとも、バブル&バーストを繰り返すことが続くだけだろうか。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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