貧富の格差が株式バブルをもたらすメカニズム BNPパリバ・エコノミスト河野龍太郎氏に聞く

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バイデン政権は1.9兆ドルの財政出動を行う。右から2人目がジャネット・イエレン財務長官(写真:Bloomberg)

今回、需給ギャップの3倍に相当する1.9兆ドルの財政出動を予定しており、その前に9000億ドルの財政支出も行われているわけだが、賃金が上昇しない以上、物価の上昇は長続きせず、いわゆるインフレにはならないとみている。ただ、昨年、物価が下がったことの裏が出ることもあって、一時的には上がる。

財政政策で一時的に自然利子率(投資と貯蓄を均衡させる利子率、景気に中立的、長期的にはほぼ潜在成長率に一致)が押し上げられて、タイムラグを伴ってインフレ率も上昇するが、財政政策は拡張を続けない限り、前年比でその効果が剥落するので、自然利子率もインフレ率も元の水準に戻る。さらに、先になって財政の健全化が図られれば、自然利子率もインフレ率も元の水準よりも一段下がることになる。

数字で説明すると、100のGDPを10の追加財政で110にしたとする。この場合、翌年も10の追加財政を続ければGDPは110のままで、成長率はゼロということになる。もし、翌年追加財政を行わなければGDPは100に下がってしまう。つまり将来はむしろ財政の崖による成長率の低下が問題となってくる。だから、イエレンの高圧経済戦略でもインフレ率は上昇しない。

物価連動債から逆算したインフレ期待は足元で上がっているではないか、という反論が出そうだが、FRB(連邦準備制度理事会)が買っている債券の中には物価連動債も入っている。普通の国債は発行も増えているが、物価連動債は発行が増えていないので、FRBの買いによって需給が大きく歪み、価格が上昇している。一般の人々のインフレ期待が上がっているのではない。

1980年代までは、大規模財政を発動するとインフレ予想を高めることができた。当時は自然利子率、すなわち潜在成長率が高かったから、財政をふかすとすぐに経済が加熱した。しかし、今は、潜在成長率が下がっているので、金融政策も財政政策もインフレを作れない。

財政拡張で起きるのはインフレでなく資産バブル

――そうすると、危機対策をやっても、雇用や物価上昇にはなかなか結びつかず、また、資産価格が上がるだけということになりますか。

そうなる。イエレンの高圧経済の帰結はまさに、金融不均衡だろう。

大規模財政で現金給付が行われたが、消費には一部しか回らず、貯蓄に回っている。そうすると、財政出動のために国債発行で金利が上昇するとは言うが、給付金が預金に滞留し、銀行が預金の運用のために国債や社債を購入するので、結局は金利やクレジットスプレッド(信用力に応じた社債の利ザヤ)は押し下げられる。また、アメリカの個人の中には給付金を株式の購入に回す人も多いので、株価も上がっていく。

経済の回復が見通せる中で、大規模な財政支出を繰り返すことは、物価でなく資産価格を大きく押し上げる。実体経済と株価が乖離しても、株価の高いことが短期的な安定をもたらすので、政策当局はやめられない。パンデミックが収束して、経済が回復し、財政支出をもうやらなくてもいいということになると、金融市場も経済も大きな調整を迎える可能性がある。バブルとバーストの繰り返しだ。

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