「郊外マンション」コロナ禍での販売に意外な壁 在宅勤務で都心に住む必要はないというが・・・

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開設の経緯について、東急リバブルの佐藤英明営業推進グループマネージャーは、「デベロッパーなどから『お客を紹介してくれないか』という依頼はこれまでもあった。サイトを通じて各物件への送客につなげたい」と話す。掲載料はマンションで月10万円、成約時には別途手数料が発生する。開設当初の1日当たりページビューは数千件と、通常リバブルが開設する特集ページの3倍に上る。

アウトレットという表現に眉をひそめるデベロッパーもいたが、地元以外からの集客ツールとして活用する企業もある。埼玉県内と神奈川県内のマンションを掲載している日本土地建物の担当者は、「検討対象ではなかった客に『こういう物件もあるのか』と気づいてもらいたい」と話す。

掲載物件の多くは竣工済みの郊外物件だ。東急リバブルの岩男恭平係長代理は、「販売が長期化すると、広告を打ってもモデルルームへの来場が増えにくい。地元の不動産業者に集客を依頼するデベロッパーもいるが、業者の営業エリア内での集客にとどまることが多い」と話す。

リーマンショックのトラウマも

テレワークの普及が追い風とはいえ、郊外回帰がどこまで進むかの判断は難しい。前述の長谷工子会社による市原市内の物件では、当初は全戸を100平米の大型住戸で占める企画を立てていた。だが、郊外回帰の勢いが鈍いことや想定顧客の購入予算の制約を受け、商品構成を80~100平米台に見直した。

郊外回帰の動向にかかわらず、都心でのマンション供給続ける方が合理的という意見もある。「都心の物件であれば投資家や富裕層向けに利益率の高い高級物件を供給でき、販売が振るわなくとも最悪値段を下げれば売れる。実需が中心の郊外では採算が取りにくいうえ、値段を下げても売れないリスクがある」(中堅マンションデベロッパー)。 

2008年のリーマンショック後の苦戦ぶりも尾を引いている。不動産市場の落ち込みを受け、郊外の新築マンションが業者に投げ売りされた。転売先の業者が「新価格」と題して当初の販売価格から3割以上も値引きを行ったことで、さらに需給バランスを崩す要因となった。

リーマンショック後の教訓から、郊外での供給にあたっては地元需要の強さや競合物件の供給状況などを綿密に調べ、事業性を慎重に判断するようになっている。郊外マンションの事業性にデベロッパーが自信を持てるようになるまでには、まだ時間がかかりそうだ。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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