コロナ禍で“蒸発"させられた韓国の若者たち 2020年の自殺者はコロナ死者数より多い、20代女性が最多

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コロナ禍による国からのさまざまな規制強化で、自営業者が受けた直撃弾は大きかった。2020年末時点で、前年比7万5000人もの自営業者が廃業している。30代半ばのパク・ジュホさん(仮名)は、2020年9月に仁川(インチョン)市のあるマンションで死体となって発見された。

彼の部屋には販売しようとしていた凧が積まれていた。同じ部屋には綿あめを作る機械もあり、マンション近くの空き地には移動しながら綿あめをつくるトラックが止まっていた。パクさんが生前、どれほど一所懸命に生きようとしたかを物語る証しだった。彼の兄は「ジュホは一所懸命に生きていた。結婚もせず、歯を食いしばって生きていたのに……」と涙を流した。

サクセスストーリーの小説1冊を残した青年

不景気なのに不動産価格は急騰し、青年層にとっておいそれとマンションやアパートに住むことができなくなった。2020年6月、ソウル首都圏・京畿(キョンギ)道華城(ファソン)市で死後10日過ぎて発見された30代半ばのキム・ミンジュンさん(仮名)。韓国で「考試院」と呼ばれる、日本の予備校のような施設で簡単な宿泊設備がある場所で亡くなった。

赤い丸で囲まれた本が、キム・ミンジョンさんが生前読んでいた小説(写真・ソウル新聞)

わずか3坪で窓もない部屋は、電灯があるだけで日が差し込むこともない。薄い壁に仕切られて各フロアーに7、8人が住んでいたが、彼の死に気づいた人はいなかった。冷蔵庫にはガチガチに凍ったキムチのみ。10着もない服が遺品のすべてだった。ただ、1冊の小説が残されていた。「オフィステル」という書名の本は、起業した画家が不渡りを出した後、再起を図って成功するというサクセスストーリー。彼はこの小説を読みながら考試院生活からの脱出を夢見ていたのだろうか。

30代半ばのミン・ジェヒョンさん(仮名)は、2020年6月に自殺を選んだ。彼のタンスには、新品のジャンパーが残されていた。YouTube映像を作成するための機械がセッティングされていた。彼が成功を夢見ていたユーチューバーの実状は、2019年に所得申告したメディアコンテンツ制作者のうち、上位10%が2億1600万ウォンを稼いだ一方で、下位33%は年間100万ウォンも稼ぐことができないものだ。

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