法律に弱い人が修羅場で役に立たない納得理由 最新情報を集め、学び、法務を味方につけよう

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有効なのは、「これはどの程度のリスクか、そしてそれは踏めるリスクかどうか、踏めない場合の代案は何か?」だ。ここでリスクを算定する際の前提として、「法的リスク=影響の大きさ×発生確率×ダメージコントロールの失敗可能性」という公式を覚えておきたい。リスクは多くの要素の掛け合わせで、濃淡もある。

その濃度と施策のメリットとを比較考量して実行するか否かを決めるのはビジネス部門の役目で、その作戦参謀が法務部だ。よって、法務部からは、ある施策に対して質の高い判断をするための材料、すなわち「リスクの可視化」と「対案」を引き出すことが重要なのだ。

リスクの可視化に当たっては、「他社事例はどうなっているのか」「検挙例が実際にあるのか」など具体例を聞く。「厳密には法に触れる」ことと、実際に検挙されるのかどうかには、意外と大きな隔たりがある。また究極的には、そのリスクが最悪、金で解決できるものであるかという点も重要だ。

「やらないほうがいい」と言われたら?

そのうえで、「このビジネスはやらないほうがいい」と法務部に言われたらどうするか。そこで終わりにはせず、「一緒に対案を考えてください」と求めてほしい。これは、社内に強い法務部を育てることにもつながる。法的にダメだ、と言うのは簡単だが、対案まで考えられて初めて、企業価値向上を担う作戦参謀としての法務部といえるのだ。

なお、法務担当者や弁護士は、担っている職責上、記録が残るものについては保守的な回答をせざるをえない。書面やメールでの保守的な回答を額面どおりに受け止めてしまうのは、仕事の仕方としてはいまひとつ。本当のリスク感を知りたければ、記録に残るものとは別に、あえて口頭で「実際のところ、どんな感じですか」などと聞いてみるのもいいだろう。

臨床系の案件を相談する際は、すでに起こったことをわかりやすく伝える必要がある。法務部に相談する前に、事前準備として「関係図」と「時系列表」を作成し、事実関係を整理しておきたい。

「関係図」とは、事案の登場人物(法的主体)をプロットし、これらを線でつなげて、誰が誰に対して何をしたのかを一覧化したものだ。「時系列表」とは事実関係を時系列で整理したもので、これを作ることによって事実関係の抜け・漏れや関係者の主張の矛盾を明らかにできる。

法務部門の役割をビジネスにブレーキをかけることのみと捉えているなら、間違いだ。それは法務部門の使い方を誤っている。法務部門をビジネスの作戦参謀として使いこなす力、それもビジネスパーソンに求められる重要な能力なのだ。(構成:山本 舞衣/週刊東洋経済編集部)

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宮下 和昌 経営共創基盤(IGPI) ディレクター 、IGPI弁護士法人代表弁護士

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みやした かずまさ / Kazumasa Miyashita

慶應義塾大学総合政策学部卒。ソフトバンクにおいて、持株会社及び戦略事業子会社の法務部門を兼務し、事業提携・M&A、戦略シナリオの策定、訴訟対応、新規事業開発、レギュラトリ、契約審査等の各種業務に従事。経営共創基盤(IGPI)参画後は、戦略コンサルタントとして、ベンチャー企業の業務改善から大手企業の海外進出まで幅広い分野において、事業・法務横断的なアドバイザリーサービスを提供。著書に『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック』(共著)等。

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