原発推進の限界も露呈、東京電力の株主総会 反原発の議案は全て否決

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反原発の議案は全て否決された

株主からは、福島第一原発の吉田昌郎元所長の調書をすべて明らかにせよ、との要求も出た。これに対し廣瀬社長は、政府事故調査委員会による「吉田調書」の扱 いは政府の管轄とした一方、東電自身が作成した事故調査報告書でも吉田氏に質問しているが、「危機的状況下での判断であり、他の社員との発言に食い違いも ある。いろいろな意見、事実を踏まえて検証しながらまとめたのが報告書だ」として、吉田氏への個別調書の公開に否定的な考えを示した。

福島県民の株主による質問では、「福島第一原発での放射性物質を含んだ地下水による海洋汚染に対し、根本的な対策が打ち立てられていない。地下水バイパスに よる一部地下水の放出に対し、多くの福島県民は懐疑的であり、その受け入れは苦渋の決断であるという心根をわかってほしい」、との要望が出された。

これに対し4月に福島第一廃炉推進カンパニーのプレジデントに就任した増田尚宏常務執行役は、「汚染水問題に対しては、汚染水を取り除き、増やさず、海に漏 らさないために、重層的な対策を行っている。汚染水を増やさないために、地下水バイパスで(汚染前の)地下水を海に放出することに関しては、漁協の皆様に 苦渋の決断をしていただいた。その信頼を損なわないように、しっかりと運用目標を守ってやっていく」と回答した。

まず自らがコストダウンを

また、電気料金の再値上げの可能性に関する株主の質問に対し、山口博副社長は「原発の再稼働が遅れると収支が非常に厳しくなるが、再値上げは他のあらゆる手段を講じたうえでの最後の手段と認識している」と説明した。

今年1月に新たな経営中期計画である「総合特別事業計画」を策定した際には、今夏にも再値上げ決断の可能性を示唆していたが、料金値上げを人質に とったかのような形で原発の早期再稼働を求める東電経営陣の姿勢に批判も高まっていた。そうした批判を受け、電気利用者に負担を転嫁する前に、まず自らが コストダウンを徹底して身を切るという姿勢に転換したものだ。国民の多額の税金が注入され、電気利用者の負担で経営している東電には、国民・利用者による 不断の監視が必要といえる。

(撮影:尾形文繁)

中村 稔 東洋経済 編集委員
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