すぐに「ググる人」が陥る思考力低下という盲点 批判的思考・問題解決力・創造力への深刻な影響

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心理学者のジム・テイラーは、思考を次のように定義する。「経験や知識や洞察に基づいて内省し、推論し、結論を導き出す能力。私たちを人間にしたもので、私たちが意思疎通し、創造し、構築し、進歩し、文明を持つことを可能にしたもの」。そのうえで、「テクノロジーは子どもの考える力にさまざまな面で有益にも有害にもなりうるとする研究が増えている」と警鐘を鳴らしている。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学特別教授、パトリシア・マークス・グリーンフィールドは、10年以上にわたってこの問題を研究してきた。

教育への影響を論じるなかで、グリーンフィールドはこう書いている。

「大学生が授業中にノートパソコンでインターネットを使った場合、学習にどのような影響が出るのか。それをコミュニケーション研究の授業(インターネットや図書館データベースで調べ物をするため、授業中のパソコンの使用がふだんから推奨されている)で調査した。学生の半数(無作為に選別)はパソコンを開けておくことが許され、残りの半数は閉じるように求められた。授業後に抜き打ちテストをすると、パソコンを閉じていた学生は、開いていた学生よりも授業の理解度が高かった」

インターネットがすでに考えたことを調べるのではなく、自分の頭を使って授業を聞いていたので、いざ推論するとなったときにより深く考えられたのだ。グリーンフィールドは別の調査も分析しており、画面下にテロップが表示されないニュース番組を見た大学生は、キャスターの話をよく覚えていたことを明らかにしている。

自分で考えることを放棄しはじめた人々

劇作家のリチャード・フォアマンは、人々が思考の多くをインターネットに依存することで、人間のあり方そのものに変化が生じている現実を危惧する。

「私は西洋文化の伝統の中で育った。

そこでは、高い教育を受けた聡明な個人の、複雑で密度の詰まった『大聖堂のような』構造が理想(私の理想)とされていた。1人ひとりが独自に構築した西洋の文化体系をまるごと自身の内側に抱える男、または女がそうだと。しかし今日、情報過多と『すぐに使える』技術に圧され、(私自身も含めた)すべての人々の中で、複雑な内なる密度が新たな類の自己進化に置き換わっていくのを目の当たりにしている」

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