音楽は心を癒やす

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プロゴルファー/小林浩美

 米ツアーに参戦しているころ、1カ月間試合を転戦した後に、アトランタの自宅に帰って聴く音楽は最高だった。大好きな音楽を大音量にして聴く。ノリのよいアップテンポな音楽なら、壁一面に張った大きな鏡の前で適当な振り付けで踊ったりもする。もともとその鏡は室内でスイングチェックをするのにしつらえたものなのだが……。

ツアー中、音楽を聴く機会は大きく分けて3回ある。まず一つ目。毎朝ゴルフ場に向かうとき。なるべくアップテンポの曲を聴いた。自分の気持ちを盛り上げるためだ。「いざ、出陣!」と、戦闘モードに入りやすくなるのだ。あるとき、おとなしめのスローな曲を聴いて、まいってしまったことがある。気持ちがどうも盛り上がらないのだ。それならいっそ、車の窓を開けて新鮮な空気を吸いながら、周りの「音」を聴き、リラックス。上位争いしているようなときはこちらのほうが気持ちの集中がしやすかった。
 二つ目は、試合が終わってホテルに戻るとき。このときは緊張から解放されているので、どんなジャンルでも大丈夫。
 三つ目は、試合先から試合先へ車で移動するとき。私は一人で運転するのは4~5時間までと決めていた。こんなときは日本から友人が送ってくれた音楽や米国で流行しているポップミュージックのCDを聴いていた。当時好きだったのはバックストリート・ボーイズやブリトニー・スピアーズ、サンタナ、デステニィ・チャイルドなど。アリゾナからロスの試合先に行くときは景色が砂漠になる。成績上位で終わった試合後の移動は快適そのもの。この広い米国で、ちゃんと独り立ちして仕事をしているという充実感に包まれた。聴いている音楽とともに運転しながら踊りそうになる。

米国に参戦してまもなくは予選落ちが続き、一足先にオレゴンからシアトルの試合に行くとき。暗い気持ちを引きずって真っすぐ目的地に行く気になれず、途中、道を外れて太平洋の見える海沿いに向かった。こんなときはラジオから流れてくる音楽も耳に入らない。適当な場所に車を止めてひざを組んで独り、海を眺めた。この海の向こうには日本がある。空を見た。この空は日本につながっている。「このままで自分は米国で通用するのだろうか?」。込み上げる切ない気持ちで時間を過ごした。このとき、近くの店で買った体長10センチメートルのガラス細工のカメは、いまも私の側に置いてある。

四つ目は番外編。主人と旅行しているとき。アトランタの自宅から隣の州のアラバマやフロリダに車でのんびり旅行をした。このとき、クラシック好きな主人の影響で、私も少し聴くようになっていた。ささいなことがきっかけで車の中で深刻な夫婦げんかが始まった。険悪な雰囲気になったとき、ベートーベンの「運命」がタイミングよく響いた。「ジャジャジャジャァ~ン」。漫画みたいな展開に、空気はほぐれた。

プロゴルファー/小林浩美(こばやし・ひろみ)
1963年福島県生まれ。89年にプロ初優勝と年間6勝
を挙げ、90年から米ツアーに参戦、4勝を挙げる。欧州ツアー1勝を含め通算15勝。現在、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)理事。TV解説やコースセッティングなど、幅広く活躍中。所属/日立グループ。
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