2階の飲食店が「美容整形」に様変わりする理由 コロナ禍で起きた「空中階フロア」の異変

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このオーナーの保有するビルは8フロアのほとんどが飲食店であったが、コロナ第3波が押し寄せた2020年11月ごろまでに半分が空きテナントになった。

「一般にビルオーナーは余裕があると思われがちだが、私を含め個人オーナーの中にはローンが残っている人も多い。将来的な修繕費なども勘案すると非常に厳しい」と切実だ。今後は、飲食以外の業態もにらみながら新規テナントを募集する構えだという。

苦境の飲食テナントの反面、目立つのが美容整形クリニックやエステといったテナントの出店だ。こうしたテナントはコロナ禍でも業績が堅調で、しっかりと賃料を納める傾向にあるという。

美容整形クリニックは、空中階の出店が好まれる(記者撮影)

銀座の空中階に入居し、美容整形やスキンケアなどを手がける東京イセアクリニックでは、2020年の来院者が前年比で1.8倍に増えた。

同クリニックは、「在宅勤務の普及やマスク常時着用により術後の経過を人に見られずに済むこと、整形のために韓国へ訪れていた人が国内のクリニックを利用するケースが増えたこと」(広報)が、来院者数増加の理由だと説明する。

ある不動産関係者はテナント募集の舞台裏を次のように明かす。

「渋谷の某ビルは10フロアすべてを飲食テナントにして、飲食ビルにする予定だった。だが、あまりにも飲食テナントが入らないため、急きょ複数のフロアをエステなどのサービス系テナントでも募集することになった」

人目につかないのが逆にいい

不動産サービス大手CBREの奥村眞史シニアディレクターは、「テナントを長期間空けたままにしておくことは事業計画上難しいことから、飲食テナントの撤退後、美容整形クリニックを筆頭にサービス系テナントを募集するなど路線変更を行うオーナーさんが足元で出てきている。コロナ前にはほとんど見られなかった現象だ」と、コロナ禍で生じた新たなトレンドを語る。

美容整形クリニックや脱毛サロンなどは、プライバシーに直結する業態であることから、1階の路面店よりも空中階など目立たない場所に出店することが好まれる。

さらに、飲食テナントから変更する際もハードルが低い。例えば、美容整形クリニックの場合、入院施設などを伴わなければ、入居させる際にビル側の工事が発生しづらく、比較的簡便だ。

飲食区画からオフィスへ変えるケースについてもまれにあるというが、「オフィスに勤める従業員と酔客とのトラブル回避の観点からも、飲食テナントが多いビル内にワンフロアだけオフィステナントが入居することはほとんどない」(CBREの奥村氏)そうだ。

繁華街の雑居ビルを彩った飲食店の看板やネオン。だが、コロナ禍のいま、その様相は大きく変貌し、賑わいも消えた。それは飲食店が置かれた苦境を物語る風景ともいえよう。

中尾 謙介 東洋経済 記者

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なかお・けんすけ

1998年大阪府生まれ。現在は「会社四季報」編集部に在籍しつつ水産業界を担当。辛い四季報校了を終えた後に食べる「すし」が世界で1番美味しい。好きなネタはウニとカワハギ。

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