静岡リニア批判、隣県・市町と比べ際立つ過激度 「ゴールポスト」動かしてJR東海を封じ込め

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「静岡県お得意の“ムービングゴールポスト”がまた始まったよ」――。

難波副知事の発言を知ったJR関係者がため息をついた。ムービングゴールポストとは、サッカー競技から派生した隠喩である。交渉して妥結点が見えそうになると、相手が合意条件を一方的に変更して、さらに要求する行為を指す。外交やビジネス交渉などでこのような“ゴールポストを動かす“例はしばしば見られる。

リニアをめぐる静岡県の例でいえば、リニアの環境影響評価準備書について県は、2014年3月にトンネル掘削で発生する湧水を「技術的に可能な最大限の漏水防止対策と鉄道施設内の湧水を大井川へ戻す対策をとることを求める」という知事意見を出した。それを受け、JR東海が導水路トンネルを設置して、トンネル湧水をポンプアップして「大井川に戻す」と表明すると、県は2017年4月に環境影響評価書の事後調査報告書の知事意見で、トンネル湧水について「全量を恒久的かつ確実に大井川に戻す」というより強い表現に変えた。

そこで、JR東海は2018年10月に「原則としてトンネル湧水の全量を大井川に流す措置を講じる」と表明したが、全量戻しの準備が整うまでの間は湧水が県外に流出することを理由に、川勝知事は「(大井川の水は)1滴も譲らない」と発言。さらに、「JR東海は工事凍結を表明すべきだ」と言い出すなど、静岡県の要求レベルはどんどんエスカレートしている。

有識者会議の出す結論に静岡県が同意するかどうかも気がかりだ。会議設置前、静岡県は「メンバーの人選が中立的ではない」として、当初予定されていた人物を外すよう要求、代わりに県のリニア専門部会の委員を兼ねる人物2名を有識者会議に送り込んだ。県が納得するメンバーがそろったことによって、難波副知事は「われわれが必ずしも納得できないような結論が出てきてそれは少し違うかなと思っても、そういう人がおっしゃるならある程度はしょうがないですねと、受け入れる素地ができる」と話した。

水より難関「生物多様性」問題

しかし、これまでの流れを見ていると、有識者会議の結論を県が「わかりました」と受け入れるようにはとても見えない。「納得できない」として約束を反故にする可能性はありそうだ。

水資源問題よりも厄介なのが、その後に有識者会議で議論される予定の生物多様性の問題だ。「水の問題は水が減るのか減らないのかという見解の違いを評価するだけだが、生物多様性は現地調査をしっかりやっていただかないと議論しようがない」と難波副知事は話す。JR東海が行った現地調査は十分ではないというが県のスタンスだ。

だが、視点を変えると気になる点もある。リニアは2014年に登録承認された「南アルプスエコパーク」のエリアを通過する。このエコパークは山梨、長野、静岡の3県の10市町村にまたがる。

静岡県は「南アルプスは人類の共有財産。みんなで保全しないといけない」(川勝知事)として、生物多様性を守るための詳細な議論を求めている。一方で、山梨、長野両県では環境影響の問題はすでにクリアされ、工事が始まっているのだ。

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